第78話 海の家
「俺が七星にオイルを……?」
「はい!前は自分でも更衣室の中で塗れたんですけど、背中とかは自分で塗るの難しくて塗れなくて……」
「なるほど、そういうことなら俺が塗ろう」
「ありがとうございます!」
特に断る理由も無かったので、俺は二つ返事で承諾すると、早速七星は近くにあった横になれる椅子にうつ伏せの形で横になった。
すると、七星はその体勢のままビキニの水着を結んでいる紐の部分を解くと、その紐を体から落とした。
「人色さん、お願いします!」
「あぁ」
俺は、右手にオイルを出すと、それらを両手いっぱいに広げた。
そして、七星の色白な背中に両手で触れる。
「ひゃっ!」
すると、突然七星がそんな奇声を上げた。
「七星?どうかしたか?」
「す、すみません!そのオイル冷たくて……私のことは気にしなくて良いので、続けてください!」
「わかった」
その後、七星は小さな声を上げていたが、塗っている間にそれも次第に落ち着いてきた……そんな頃、俺の視界の端にふと七星の胸元が映った。
水着の紐を外したことによって、七星の胸元の側面が見えてしまっている。
俺はその部分を注視したわけではなく、あくまでも視界の端に映っただけだが、念の為七星に伝えておくことにした。
「七星、水着の紐を外したことで胸元の側面が視界の端に映るんだが、今からでも紐を結ばなくても良いのか?」
そう聞くと、七星は慌てた様子で言う。
「っ!だ、大丈夫です!ちゃんと紐を解いて塗らないと、後で紐の部分だけ変な跡が付いちゃったりするそうなので……それに、人色さんにだったら……な、なんでも無いです!」
なんでもないと言われるまでもなく、最後の方に七星が何を言ったのか俺には聞こえなかったが、とりあえずこのままオイルを塗っても大丈夫ということらしいため、俺は念入りに七星の背中全体にオイルを塗ることにした。
そして────
「人色さん!オイル塗ってくれてありがとうございました!」
「別にいい」
俺が七星にオイルを塗り終えると、七星はオイルをロッカーに入れて、俺たちは今海の家の屋台の前まで来ていた。
「海の家って言ったらやっぱり焼きそばとかき氷ですよね〜!」
「七星が食べたいと思うなら、両方一緒に食べよう」
「っ!はい!ありがとうございます!」
嬉しそうにそう言った七星と一緒に、俺たちはまず海の家の屋台で焼きそばを購入すると、近くにあったパラソルの下にある椅子に座り二人で焼きそばを食べ始めた。
「ん〜!焼きそば久々に食べましたけど、やっぱり美味しいですね!このソースの味が私本当に好きで……!」
「あぁ、美味しいな」
その後、焼きそばを食べ終えた俺たちは、続けてかき氷、それも二人とも同じ味でブルーハワイ味を購入して、またも同じパラソルの下でそれを食べる。
「ブルーハワイって海って感じして良いですよね〜!海を背景にして食べるブルーハワイほど美味しいかき氷この世に無いと思います!!」
「それは言い過ぎかもしれないが、その気持ちはよくわかる」
そんなやり取りをしなが食べていると、かき氷もあっという間に食べ終わり、テーブルの上に俺たちの食べた焼きそばとかき氷の容れ物だけが残されると、俺はそれらを全て手に持って言う。
「これは俺が捨てて来るから、七星はちょっとだけここで待っててくれ」
「え?い、いいですよ!私の分はちゃんと私が────」
「ちょっとでも日光に当たる時間は減らしたほうが、日焼けするリスクは下がる……すぐ捨てて来るから、七星はここで待っててくれ」
「っ!そんなこと気にしてくれて……わかりました!お言葉に甘えて、私はここで人色さんのこと待ってますね!」
「あぁ」
元気な声でそう言った七星に対して短く返事をすると、七星のことを背にした俺は更衣室付近で見たゴミ箱へ向けて歩き出した……それにしても。
「……楽しいな」
今は、ただ焼きそばを食べてかき氷を食べただけ。
それでもこんなに楽しいと思えるのは、きっとその相手が七星だからなんだろうな。
そんなことを思いながら歩き、ゴミ箱に俺が今持っていた焼きそばとかき氷の容器を捨てると、俺は七星の待っているパラソルへ戻るべく、反対方向に振り返った。
その瞬間────七星の居るパラソルに、三人組の男が集まっているのが俺の視界に映った。
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