第77話 い、今の好きは

 目的地である海に到着したため、俺と七星がプロデューサーさんの車から降りると、プロデューサーさんが言った。


「それでは、私はここで失礼します……また帰りの時は私に連絡をいただければ、数十分から長くとも一時間の間にはお迎えに来ますので、その時はご連絡ください」

「ありがとうございます!プロデューサー!」

「ありがとうございます、プロデューサーさん」


 俺たちが二人で素直にプロデューサーさんに感謝の気持ちを伝えると、プロデューサーさんは「あとは二人で楽しんでくださいね〜」と言うと車ごとこの場から去って行った。

 それにより、この場には俺と七星の二人だけが残る。


「じゃあ、えっと……水着に着替えるために、まずは海の家にある更衣室に行きましょう!」

「そうだな」


 先ほどまで恋人同士として振る舞っていたことや、もしかしたらずっと俺の腕を抱きしめていたことを気にしているのか、その真意は定かでは無いがとにかく七星は空気感を帰るように大きな声でそう言ったため、俺はそれに賛同する形で七星と一緒に海の家へ向かった。


「海も海の家も人多そうですね〜」

「あぁ……だが、見たところ更衣室の方はそれほど混んで無いみたいだから、スムーズに水着に着替えられそうだ」

「ですね!」


 そんな会話してから二人で更衣室の前へやって来ると、俺たちはそれぞれ更衣室に入り持参している水着に着替え始めた。

 水着姿と言っても、特に海でも変える必要はないと感じ水泳の時用の黒の競泳水着のため、特に何の面白味も無い。

 着替え終えた俺が荷物を持って外に出るも、七星はまだ着替え終えていないみたいだった。

 俺は、一応七星に着替え終わったことを伝えると、それから少しの間七星が水着に着替え終えるのを待つことにした。

 すると、少ししてから更衣室の中に居る七星から俺に向けて声がかかった。


「人色さん!私も着替え終わりました!カーテン開けますね!」

「わかった」


 俺がそう返事をすると、七星は自らの入っている更衣室のカーテンを開けた。

 その瞬間、俺の視界に飛び込んできたのは────赤色でビキニタイプの水着を着た七星の水着姿に、色白で細く長い脚、加えて上半身もしっかりと細く、くびれができている。

 そして、胸元の大きさは水城先輩ほどではないものの、平均と呼ばれるサイズのおそらく二回り以上は大きく、腕も細くしなやかで顔は言うまでもなく整っており、改めて、目の前に居る人物がモデル、それも人気モデルだということを強く認識する。

 だが、これはそれだけで片付けて良いことではない……人気モデルだからと言って、誰もがここまでの体を維持するために自らを律することができるのかと言えば確実にそうではない────だからこれは、七星の努力であり、俺はその点を素直に尊敬しなければならない。

 俺が瞬時にそんなことを思っていると、七星は頬を赤く染めて恥ずかしそうにしながら聞いてきた。


「人色さん……私の水着姿、どうですか?」

「あぁ、その水着が七星によく似合ってると思う」

「っ……!あ、ありがとうございます!」


 嬉しそうにそう言った七星だったが、まだ気になることがあったのか続けて俺に聞いてくる。


「あの……私の体型、とかはどうですか?一応モデルなので気を遣ってるつもりなんですけど、人色さんにはできるだけ良く思われたいっていうか……」


 七星は最後の方になるにつれて言葉をフェードアウトさせていったが、とりあえず俺は七星の体型についてどう思ったのかを答えれば良いらしいため、俺は即答する。


「人の体型について何かを言うのはどの視点から言えば良いのかわからないから、上手く言葉にできなかったら悪いんだが……七星が普段からモデルという仕事に本気で取り掛かってることがわかる綺麗な体型で、とても良いと思った」

「っ……!」


 俺がそう伝えると、七星は小さく声を上げてから続けて頬を赤く染めて嬉しそうな笑顔で言った。


「私、人色さんの表面的なところだけじゃなくて、そういう見えないところまで褒めてくれるところ、本当に好きです!」


 見えないところまで褒める、か……意識的に行っているわけではないが、確かに俺にはそういったところも見る癖があるのかもしれないな。

 客観的な意見から自己分析をしていると、七星は頬を赤く染めて慌てた様子で両手を振って言った。


「い、今の好きは他の意味とか無くて、本当にそのままの意味ですから!!」

「そうか」


 むしろ今の文脈で他の意図を予測する方が難しいため、それが無いと言うのであればここは特に何も考えなくて良いだろう。


「あと、その……私も、人色さんの体、かっこいいと思います」

「……そうか」


 どこか恥ずかしそうにそう言った七星に、俺は静かにそうかえした。

 その後、どこか照れた様子の七星と一緒に更衣室近くにあったロッカー前まで来ると、俺たちはそれぞれロッカーの中に荷物を入れた……が。

 七星は、液体が入っていると思われる半透明の容器を手に持っていた。


「七星、その容器はロッカーに入れないのか?」

「これは日焼け止めオイルなので、今から使います!それで……人色さんにお願いがあるんですけど────私にオイル、塗ってくれませんか?」

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