第72話 君の声
水城先輩の個人大会の日まであと一日……正確には、もう夜なためあと数時間。
最初に水城先輩と水泳練習をした日からも、何度か水城先輩とは練習を行ったため、個人的に全くの他人事とは思えず明日の結果は俺も気になるところだった。
そんなことを考えていると、噂をすればというもので水城先輩からメッセージが届いたため、俺はそのメッセージを開く。
『色人くん、いきなりで悪いんだけど、電話しても良いかな?』
『はい』
俺が即座にそう答えると、水城先輩からの着信が入ったため、俺は水城先輩からの電話に出る。
『もしもし、聞こえるかな?』
「はい、聞こえます」
『良かった〜』
俺がそう返すと、水城先輩は安堵したようにそう言った。
そして、続けて言う。
『いきなり電話したいなんて言ったら、君は嫌がるかなって思ったけど、一返事で返してくれてお姉さん嬉しかったよ』
「特に用事も無かったので」
『だとしても、嫌がらずに電話してくれるって君じゃなくても男の子だったら結構女の子から好感持たれるよ?もし君のこと好きな女の子が居たら、今頃嬉しくなってプール1キロメートルぐらいは走りたくなってると思うよ』
「水城先輩らしい例えですね」
それから少し間を置くと、俺は水城先輩に聞く。
「今回は、怪我とかは大丈夫ですか?」
『うん!お姉さん、今はもうちゃんと自己管理できるお姉さんだから!』
「それは良かったです」
俺がそう言うと、その後水城先輩は間を空けてから言った。
『ねぇ、私が今日君に電話した理由……わかるかな?』
「わかりません」
俺が素直にそう答えると、水城先輩は明るい声で言った。
『それならお姉さんクイズだね〜!君のお姉さんの理解度テストだよ!正解できたら水着姿で君の望むポーズの自撮り送ってあげる!』
「それは結構ですけど、せっかくなのでその理由を当ててみたいと思います」
と言いながらも、このタイミングという時点で電話の理由など一目瞭然なため、俺は間を空けずに言う。
「個人大会の前日に、俺と水泳の話とか練習の振り返りをしたかった、とかじゃ無いですか?」
そう予測して答えたが俺だったが────水城先輩は言った。
『個人大会の前日っていうところと、君っていう部分は合ってるけど、それ以外は違う……とまでは言わないけど正確じゃ無いかな』
「正確じゃない……?」
俺がそう聞き返すと、水城先輩は答えを出した。
『────私が君に電話したのは、私が君の声を聞きたかったから』
「俺の……声を?」
『うん、会話の内容なんて関係無いの、私はただ君の声を聞きたかっただけ』
「そうですか」
『……怒らないの?』
「怒る……?どうして俺が怒るんですか?」
『いきなり電話して良いか聞いてきて、何か要件があるのかと思ったら要件が無いなんて言われて、普通はちょっとぐらい怒ると思うよ?』
「俺も水城先輩の練習に何度か付き合ってて明日の水城先輩の個人大会のことは気にかけていたので、むしろ話せて良かったと思ってますよ……それに、水城先輩が相手なら要件の無い電話でも飽きなさそうなので」
『っ……!何それ、そんなの、もっと、君のこと……』
水城先輩は、電話越しに何かを小さな声で呟いていたが、端末音声ということもあって上手く聞き取ることができなかった。
「何か言いましたか?」
俺がそう聞くと、水城先輩が言う。
『ねぇ、明日の大会、君も私の応援に来てくれるんだよね?』
「はい、もちろん行きます」
『そっか……うん、その言葉だけで、本当に頑張れるよ』
水城先輩は、嬉しそうな声音でそう言うと、今度はとても明るい声で言った。
『それはそれとして!お姉さんの理解度がまだまだ足りない君には、お姉さんのことを知ってもらうためにこれからもっとお姉さんと過ごしてもらわないといけないね〜!』
「それはまた、大変そうですね」
『でも、今回理解度テスト間違えたからって落ち込まなくていいよ!確かに正解した時の水着姿で君の望むポーズの自撮りを送ってあげるっていうのは無くなったけど、代わりに普通の私の水着姿の写真送ってあげるから!』
「それは結構です」
『え〜!じゃあ……肌色の多い水着姿、欲しい?』
どこか甘い声でそう聞いてきた水城先輩に対して、俺は間を空けずに言う。
「水城先輩、明日の個人大会頑張ってください、応援してます」
『っ!?ま、待って待って、切らないで!?もうふざけないから、もう少しお姉さんとお話して!?』
「……わかりました」
その後、俺と水城先輩は一時間弱ほど何気ない会話を楽しんだ。
◇水城side◇
真霧との電話を終えた水城は、スマホをテーブルの上に置くと、真霧の顔とついさっきまで聞いていた声を思い出しながら頬を赤く染めて言った。
「個人大会の緊張とかで明日ちゃんと泳げるか不安だったけど、色人くんが応援してくれるならそのためにもちゃんと頑張らないと……だけど、今は君のことが頭から離れなさそうで明日ちゃんと泳げるか不安になってきたよ!もう〜!明日集中できなくて負けちゃったら、君のせいなんだからね!?」
そう言いながらも、水城は続けてそんな自らの言葉に対して言う。
「……なんて、もしそうなっちゃったとしても私のせいだよね、だって────君のこと、こんなに好きになっちゃったのは私なんだから」
水城は、そう言いながらどこか嬉しそうに頬を赤く染めて口元を結ぶと、真霧と話すことも叶い満足し、明日に備えて眠ることにした。
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