第71話 普通

◇真霧side◇

 アイスクリーム屋に到着し、七星と一緒に話題の新作アイスというものを頼んでみたが……


「これがアイスなのか?」

「はい!そうですよ!これが話題の家アイスです!」

「家アイス……」


 コーンの部分がとても小さく、その上に長方形で固められたバニラが乗せられ、その上にバニラアイスがホイップという形で乗せられていき、上の部分の形が屋根のようになり、コーンの部分が家のように見えるから家アイス、ということだろうか。


「それに、家アイスのすごい部分は、この屋根にスプリンクルとかチョコレートチップとか自分好みの好きなトッピングがたくさんできちゃうんですよ!屋根の部分が大きいので、場所ごとにトッピングを変えたら一度で何種類も食べれちゃうんです!せっかくなので、何かトッピングしてみますか?」

「あぁ……だが、俺はこういうのに詳しく無いから、七星に任せてもいいか?」

「っ!もちろんです!!」


 七星は嬉しそうにそう言うと、目の前にあるトッピング材料を次々に七星自身と俺のアイスにかけた。

 そして、それが完成する頃には、クリーム色だった俺と七星のバニラアイスは、いつの間にかとてもカラフルになっており、俺と七星は一緒に店内の席に座ってそのアイスを食べ始めた。


「う〜ん!美味しい〜!冷た〜い!」

「確かに美味しいな……七星のトッピングの上手さも流石だ」

「えへへ、嬉しいです!」


 七星は、照れたようにそう言った……このアイスでたくさんのトッピングが楽しめるというのが魅力的だというのが、実際に食べてみるとよくわかる。

 それから少しだけ間を開けると、七星がアイスを食べる手を止めて言った。


「……実は、私と人色さんのアイスでトッピング分けてるんです!」

「そうなのか?」

「はい!だから、その……」


 そして、どこか恥ずかしそうに頬を赤く染めながらも俺に向けて言った。


「と、人色さんさえ良かったら、アイス交換っていうか、食べさせ合いっこっていうか、もしかしたら間接キスになっちゃうかもしれないですけど、したいなって、思ってて……い、嫌だったら全然良いんですけど、どうですか……?」

「嫌なんて思うはずがない、七星がそうしたいならそうしよう」

「っ!?い、良いんですか!?」

「あぁ」

「ありがとうございます!!」


 そう言うと、七星は嬉しそうにしながら今自分の持っているアイスを俺の方に差し出して来て言った。


「じゃあ、人色さん……これ、どうぞ!」

「ありがとう」


 俺は、七星にお礼を言うと差し出されたアイスを口にする……なるほど、確かに俺のとはトッピングが違い、当然味も違うが────


「これはこれで美味しいな」

「ですよねですよね!あと、私の食べたところで、その……さっきも言った通り、か、間接キスになるかもしれないんですけど、気にならなかったらチョコチップのところも美味しいので食べてみてください!……私と間接キスなんてしたくなかったら、全然他のところでも────」


 俺は、七星に勧められるがままに、迷わずそのチョコチップの部分も食べる。


「……バニラとチョコチップはとても人気があると聞いたことがあるが、確かにこれは絶妙にバニラとチョコが合わさっていて美味しいな」

「っ……!そ、そうですよね!と……人色さんと間接キス、しちゃった……!」


 七星は小さな声で何かを呟いた後、どこか落ち着かない様子だったが、ひとまず俺は七星のアイスを食べさせてもらったので、今度は俺が七星に俺のアイスを食べてもらうことにして、俺のアイスを七星の方に差し出して言った。


「七星、食べてくれ」

「っ!は、はい!」


 どこか慌てた様子でそう言うと、七星は口を開けて俺の持っているアイスを食べた……そして、高い声を上げて言う。


「そうそう〜!こんな感じの味予想してトッピングしたんですよ!本当に予想通りの味になってて最高です!!」

「良かったな」


 それから、七星はアイスのある一点を見つめた後、俺の方を向いて言った。


「あの……私も、人色さんの食べたところ、食べても良いですか?」

「もちろんだ」


 俺がそう返すと、七星はどこか嬉しそうな表情をして頬を赤く染めると、俺が食べた部分のところのアイスを食べた。


「美味しいです!」

「あぁ」


 その後も俺たちはアイスを食べさせ合うと、互いにアイスを完食したのでアイスクリーム屋から出た。

 そして、店から出て歩き始めると七星が楽しそうな声音で言った。


「本当に美味しかったですね〜!」

「そうだな」

「……私、人色さんは食べさせ合うとか嫌かなって思ってちょっとだけ断られたらどうしようって考えてたんですけど、人色さん嫌な顔一つせず私の提案受け入れてくれて本当に嬉しかったです!」

「別に、あのぐらい普通じゃないのか?」

「普通じゃないですよ!友達が、彼氏でも恥ずかしがってそういうのしてくれないって言ってるぐらいで────っ!人色さん!!」

「な、なんだ?」


 突然俺のことを大きな声で呼んだ七星は、俺との距離を縮めてくるとすごい勢いで言った。


「さっきのことが普通って言ってましたけど、もしかしてもう他の女の子とかとああいうことたくさんしてるってことですか!?確かに、人色さんかっこよくて優しくて何でもできるから、そうだとしてもおかしくないですけど、誰とでも簡単にあんなことしたりしたら────」

「ま、待て、よくわからないが一度落ち着いてくれ、普通って言ったのは、あくまでも俺と七星の過ごした時間や親密さを考えればこのぐらいは普通なんじゃないかって思っただけだ、間違っても誰とでもあんなことはしない」

「っ……!そ……そういう意味、だったんですね……!」


 七星は、どこか安堵したように言うと、続けて申し訳なさそうに言った。


「ご、ごめんなさい、もし人色さんが色んな女の子とそういうことしてるって思うと、なんか複雑な気持ちになっちゃって……」

「気にしなくていい」


 俺がそう伝えると、七星は嬉しそうな表情で言った。


「人色さん!せっかくなので、今から一緒にショッピングモール行きません?最近私の好きなブランドから新作が出たんですよ!」

「アイスからファッションまで、新作が好きなんだな」

「女の子はそういうものなんですよ!」

「そうか、なら付き合おう」

「ありがとうございます!」


 それから、俺と七星は二人で一緒にショッピングモールへ向かった。


「……私が好きな人は、どれだけ色んな男の人に会ったとしても、人色さん一人だけですけどね」


 道中、一度だけ七星が本当に小さな声で何かを呟いていたような気がするが、俺は特に気にせずに七星と先ほどのアイスクリームの感想を話し合いながらショッピングモールに到着すると、そのまま二人でショッピングモール内を回って過ごした。

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