第68話 トレーニングジム

◇真霧side◇

 トレーニングウェアへ着替え終えた俺が更衣室から出て、まだ着替えて終えていない水城先輩のことを待つこと数分、水城先輩は更衣室から出てくるとトレーニングウェア姿で現れた。


「どう?お姉さんのセクシーなトレーニングウェア────って言いたかったところだけど、このトレーニングウェアはそこまでセクシーじゃないよね〜」


 水城先輩の言葉通りだが、確かに今水城先輩が着ているトレーニングウェアはスキニーな水色のTシャツで、水城先輩の言うセクシーさというものが肌の露出だけなのであればセクシーさはほとんど無いと言ってもいいだろう。


「意外ですね、一応肌露出の多いものを着て俺のことをからかってくることまで想定してたんですけど」

「え、期待してくれてたの!?それだったらもっとセクシーなの着て来てあげても良かったかな〜」

「期待してたんじゃなくて想定してただけです」


 俺が少し呆れまじりにそう言うと、水城先輩が言った。


「私が今日セクシーなの着てこなかったのは、ここには色人くん以外の人も居るからだよ……前のプールの時にも話したけど、色人くんにならどんな姿でも見せてあげられるんだけど、他の男の人に見られちゃうのは恥ずかしいっていうか、無理っていうか、嫌っていうか……とにかくそういうこと!」


 なるほど、とりあえず他にも複数名人が居るジム、それもジムに通う八割、九割は男性のためそんな中で肌の露出のある服を着るのは嫌だということだろう……だが。


「でも、そういうことならトレーニングウェア別のを着るか、持ってないなら別のものを買ったほうが良いんじゃないですか?」

「え、どうして?」


 純粋にそう聞いてきた水城先輩に対して、俺は水城先輩のトレーニングウェア姿を見ながら言った。


「水城先輩は水泳をしていてかなり体が絞れていて、部位ごとに見ても全てのスタイルが良いので、見られるのが恥ずかしいならもう少しボディラインの出ないトレーニングウェアに着替えた方が良いと思っただけです」

「っ……!?」


 俺がそう言うと、水城先輩は驚いた表情をしながらも頬を赤く染めた。

 そして、続けて言う。


「そ……それって、私のスタイルとかボディラインが女性として魅力的、っていうことで良いの……?」


 どこか緊張した様子でそう聞いてくる水城先輩に対して、俺は頷いて答える。


「はい、一般的に水城先輩のスタイルやボディラインは魅力的なものだと思いますよ」


 至って真面目に答えた俺の回答に対して────水城先輩は、どこかに不満があったのか頬を膨らませて拗ねた表情をした。


「なんですか?」

「別に〜?お姉さんは、一般的にとかじゃなくて君の意見が知りたかったのにな〜って思っただけ────だけど、高校一年生の男の子にそんなこと聞くのも野暮だし、それは聞かないでおいてあげる」


 水城先輩は、最後の部分だけ自らの口元に自らの人差し指を当てながら言った。

 なんだか釈然としないが、わざわざ答えたいことでも無かったためお言葉に甘えさせてもらうとして、俺たちはようやく更衣室前から離れると二人で一緒にジムのトレーニングマシンが置いてあるウエイトマシンエリアまでやって来た。

 そして、そこにやって来た水城先輩が第一声言った。


「こんなにたくさんのマシンがあるんだ〜!やっぱり、私の行ってたところとはマシンの種類から広さまで段違いだよ〜!」

「それは良かったです」


 その後、俺はひとまず初心者でもわかりやすい筋肉トレーニング機器の複数、主にプレス系を水城先輩に教えた。


「やっぱり、本格的なマシンを使うとトレーニングの質が違うね!」

「そうですね」


 俺がそう相槌を打ったあと、水城先輩は辺りを見渡してから言った。


「色人くん!ついて来て!!」


 俺は、ジムでここまで楽しそうにしている人は見たことが無いと思いながらも水城先輩について行くと、水城先輩は俺のことを複数のランニングマシンが並んでいる場所まで連れて来て言った。


「色人くん!このランニングマシンで、今からどっちが長く走れるか勝負しない?ランニングマシンは私の行ってたところにもあったから、良い勝負できると思うよ!」


 勝負……今までは一人で来ていて人と一緒にジムに来るのは初めてだったため、ジムで人と勝負なんてしたことが無かったが、水城先輩らしく面白い提案だと思った俺は頷いて言う。


「わかりました、せっかくなので勝負しましょう」

「ありがとう!」


 水城先輩が明るい笑顔でそう言うと、俺たちは隣合わせにランニングマシンに乗り────同じ速度でランニングマシンのボタンを押した。


「……」

「……」


 最初の10分ほどはお互いに疲れは無かったが、25分を過ぎた頃になって、水城先輩の表情に疲れが浮かんできて────


「も、もう無理……」


 28分が経つと、水城先輩はそう弱々しい声を上げてランニングマシンから降りた……そして、疲れた声音で続けて言う。


「負けちゃったね……私、ここで休憩、してるから、君も限界まで、走ってて、いいよ〜」

「はい、わかりました」


 その後、俺は一人で続けて約10分ほど走った……有酸素運動は長く続け過ぎれば筋分解が起きる恐れや、体力的には余裕があるが足の筋肉の方がそろそろかなりの疲れを感じ始めていたため、俺はランニングマシンから降りた。

 すると、水城先輩が感嘆するように言った。


「すごいね、40分も走れちゃうんだ」

「水城先輩も、女性であんなに走れ……る人は珍しいと思うので、すごいと思います」


 俺がそう伝えると、水城先輩は小さく笑いながら言った。


「君が息切れてるところ見るの、なんだか新鮮な感じ……ねぇ、ストレッチできるところってどっち?」

「あっちです」


 俺がそう指をさすと、水城先輩は俺と一緒にストレッチエリアに行きたいと言って来たため、俺は間違いなく明日は筋肉痛になっているであろう重たい足を動かして水城先輩と一緒にストレッチエリアに向かった。

 ストレッチエリアは広範囲にマットが敷かれている、文字通りストレッチのための場所だ。


「今からストレッチしよ?先に私が色人くんにストレッチしてあげるから、色人くんは好きに座って」

「……お言葉に甘えさせてもらいます」


 そう言って、俺は素直にその場に座った。

 それにしても、ストレッチか……一体どんな────と考え始めようとしたその直後、水城先輩は後ろから俺のことを優しく抱きしめて言った。


「今は足が疲れてるから私から逃げられないね……そんな疲れてる色人くんのことは、お姉さんが抱きしめてちゃんと癒してあげるからね」

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