第66話 変化

 七月の終わりが見えてきた今日この頃、俺は水城先輩と一緒にトレーニングジムへ行くこととなっていた。

 そして、ジムへ行くということで今日は髪を上げたヘアセットをすると、早速待ち合わせ場所へ向かい、辺りを見回した。


「水城先輩はまだ来てない、か」


 そう判断して少し油断して俺だったが────背中に気配を感じた直後、その背中から気配だけではなく柔らかな感触も伝わってきて、俺の前に腕を通された……要は、抱きしめられるとその人物は俺に対して言った。


「おはよう、色人くん!お姉さんと会えない間も、ちゃんと元気にしてた?」

「……してましたよ、それにしても今までは水城先輩が背後から近づいてきたらかなり強く気配を感じたのに、今日はそれが無かったですね」

「君のことを抱きしめたいっていう気持ちに、私の今までのスポーツで磨かれてきた繊細な動きを全て詰め込んだからね〜!」

「はぁ、相変わらずですね……」


 以前、俺は水城先輩のこういったところが少し苦手というか、どう対応すれば良いのかと困惑させられていたが、前の落ち込んだ水城先輩のことを見た後だと、今の水城先輩の方がやはり水城先輩らしくて良いと思える。

 そんなことを思いながらも、俺は続けて言った。


「それなら、水城先輩の目的は見事に達成したと思うので、俺のこと抱きしめるのやめて離れてもらって良いですか?」


 そう伝えた俺だったが────水城先輩は、むしろ俺のことを抱きしめる力を強めて言った。


「どうしよっかな〜、君と会うの終業式から間が空いちゃったから、お姉さん的にはもう少しこうしてたいんだよね〜」

「間が空いたって、一週間ぐらいじゃ無いですか」


 思ったことをそのまま口にした俺だったが、それが気に入らなかったのか水城先輩はどこか拗ねた様子で言った。


「学校では話せない日があっても視界には君のことを入れることができたりしてたけど、夏休みになったらそれすら無くなって君が近くに居ないってことがお姉さんはちょっと寂しかったけど、君はそうじゃ無いんだ〜?」

「はい、どうせ今日会えるってわかってたので」

「そうだけど……もう!君は本当に君なんだから!」


 水城先輩は怒ったようにそう声を上げると、俺のことを抱きしめるのをやめて、俺の正面に出てくるともはやそこには怒っている様子など全く無く、話題を切り替えるように俺の顔を見て言った。


「ていうか、今までプールの水とかで髪の毛上がってるところとかなら見たことあったけど、君がちゃんとヘアセットして髪上げてるところは初めて見たから、さっき距離あるところから見た時驚いちゃったけど、やっぱり遠くから見ても正面から見てもかっこいいね〜!」

「……冗談────」


 俺が冗談はやめてくださいと言おうとした時、水城先輩は俺の顔に手を添えて優しい表情で言った。


「冗談じゃないよ、私は本当に色人くんのことをかっこいいと思ってる……君のことは、もう包み隠さず褒めてあげるって決めたから、これからは君に思ったこと全部言葉にするからね」

「水城先────」


 俺が、水城先輩のその表情や言葉を聞いて、やはり水城先輩は年上の人なんだなということを実感させられ尊敬の念を抱きかけていた矢先────水城先輩は、俺のことを正面から抱きしめてきて俺に胸を押し当てるようにしながら言った。


「ところで!最近お姉さん、胸がさらに大きくなったと思うんだけど、どう?わかるかな?それとも、服越しだとわからないかな?」


 俺は、尊敬の念を抱きかけた途端にいつも通りな水城先輩の発言に対して間を空けずに返答する。


「わかりません」

「そっか〜!じゃあ、今度じっくりと確認────」

「結構です」


 その後、俺はしばらく水城先輩の冗談の相手をすると、水城先輩と一緒にトレーニングジムへと向かった────その道中。

 水城先輩は何度か俺のことを抱きしめようとしてきて、当然俺はそれら全てを避けたが、俺はなんだか水城先輩の雰囲気が少し前までと違うような気がした……それが夏休みだからなのか、はたまた何か別の理由があるのか。

 それは定かでは無いが、二人で歩いているとトレーニングジム前へ到着したため、俺たちは二人で一緒にその中へ入って行った。



 この作品の連載を始めてから二ヶ月が経過しました!

 この二ヶ月の間に、たくさんのいいねや☆、応援コメントなどを頂き、この物語によって皆様に楽しんでいただけていることが伝わってきて本当に嬉しく思っています!この二ヶ月の間にここまでお読みいただき、本当にありがとうございます!

 作者は今後もこの物語を楽しく描かせていただこうと思いますので、この物語を読んでくださっているあなたも最後までこの物語をお楽しみいただけると幸いです!

 今後も応援よろしくお願いします!

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