第65話 好きになっちゃうに
七星のどこかしなやかで柔らかい手の感触を感じながらも、俺がふと七星の方を向くと、七星は俺に熱の込もった視線を向けていた────が、俺と目が合うと、すぐにスクリーンの方へ視線を戻した。
それでも、手だけは元の位置には戻さず俺の手を上から優しく包んだままで、その直後に少しだけ俺の手を包む力を強めてきた。
「……」
俺は、七星に一体どんな意図があるのかわからなかったが、七星に包まれている手がなんだかとても心地良く感じられて、今はそれだけで良かった。
◇七星side◇
────やっちゃった!私、やっちゃった!!
霧真の手に自らの手を重ねてそれらを優しく包んだ七星の心境は、その視線や表情以上に大いに揺れ動いていた。
────好きな人と一緒に居る時にキスシーンなんて観ちゃったら気持ち高まっちゃうに決まってるじゃん!映画もかなり佳境で良いシーンなのに、全然集中できない!ていうか、今まで恋愛映画観る時はすっごくドキドキして観れてたのに、人色さんと一緒に居ると人色さんと一緒に居ることの方がドキドキして、あとなんか軽く聞こえちゃうかもしれないけど……
七星は、再度一瞬だけ霧真の方に視線を向けてから、すぐに照れてスクリーンの方へ視線を戻すと心の中で大きく言う。
────人色さんかっこよすぎて全然映画に集中できない!もう!なんで優しくて落ち着いてて運動もできてそういう内面がかっこいいのに、容姿までかっこいいの!?こんなの好きになっちゃうに決まってるじゃん!!ていうか、好きにならない方がおかしいじゃん!!
「……」
────人色さんの手、大きいなぁ……私と同じ学年なのに、やっぱり男の子だからだよね……この手で私のことを……
「っ!?」
恋愛映画に当てられて変なことを考えそうになってしまった七星は、頬を赤く染めて勢いよく首を横に振ってその考えを消し、少し落ち着いて考える。
────そうだよね、人色さんもまだ私と同じ高校一年生……落ち着いててなんでもできそうに見えるけど、この数ヶ月間人色さんと過ごしてきた私にはわかる……人色さんは、ずっと何かに苦しんでる。
霧真が何かに苦しんでいる、そう考えるだけで七星の胸も痛くなったが、七星は霧真の手をさらに優しく包み込む。
────人色さんのことは、私が絶対に……
七星は、それから恋愛映画が終わるまでの間、映画の内容を聞きながらも脳内の片隅でずっと霧真のことを考え続け、最後まで霧真の手を優しく包み込み続けた。
◇真霧side◇
映画が終わると、俺と七星は映画の感想を話し合うということで街にあるカフェで、俺はコーヒー、七星はカタカナの並べられた呪文のような名前のドリンクを購入して席に着いた。
「────映画面白かったですね〜!王道ラブストーリーって感じで!」
「そうだな、恋愛映画を観たことのない俺でもわかりやすい作りだった」
「良かったです!」
七星は明るい声でそう言うと、自らのドリンクのストローに口を付けた……俺は、その七星のドリンクに大きなホイップが乗っていることに、世界はまだまだ広いなと感じながらも自らのコーヒーに口を付けた。
そして、互いにドリンクをテーブルの上に置くと、俺たちの間には少しの沈黙が生まれた。
俺は特にその沈黙に対して何も思わなかったが、七星はどこか焦った様子で口を開くと申し訳無さそうに言った。
「あの、人色さん……ごめんなさい!映画中は、勝手に人色さんの手に自分の手を重ねちゃって……」
「別にいい、俺も嫌だったら振り解いてる……それに、七星に手を触れられるのは、自分でも不思議だが何だか心地良かった」
「心地良い……ですか?」
「……悪いが、上手く言葉にできない」
「そう、ですか……でも、少なくとも嫌じゃなかったってこと、ですよね」
「そうだ」
俺がそう返すと、七星は頬を赤く染めて自らのドリンクを両手で持ち、自らの目から下を隠すようにしてどこか恥ずかしそうにしながら言った。
「じゃあ、また……また、いつか機会があったら、同じことしても良い……ですか?」
「あぁ」
「っ!ありがとうございます!」
七星は、頬を赤く染めて嬉しそうにそう言った。
その後、俺と七星はこのカフェで映画の感想やこの夏休みの間にどこに出かけに行くかなどを話し合った。
七星と過ごす時間────それが、俺にとって日常の一部になっていることを、俺は今日七星と過ごしたことによって再認識した。
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