第63話 更新

 ────夏休みが始まってから数日が経過した。

 俺の夏休みは、家からショッピングとジムを行き来するという、なんとも平穏で素晴らしい日常だったが、今日はそういうわけにはいかない。

 俺は、この夏休み七星と海へ行くということだけでなく、それ以外にも出かけると約束した────そして、今日がその七星と夏休みに出かける最初の日だ。

 ということで、俺はいつも通り髪を上げたヘアセットをしてから、七星との待ち合わせ場所へ向かった。

 そして、待ち合わせ五分前に待ち合わせ場所へ到着すると、そこには一目を集めている存在が居た。

 黒の肩出しニットに白の短いズボン……そして、右耳にはオシャレなピアスを付けている。


「七星、おはよう、待たせたみたいで悪いな」


 七星が注目を集めていることはいつものことなため、当然俺は緊張など全くせずにそう声をかけると、七星は俺の方を向いて言った。


「人色さん!おはようございます!私も今来たばっかりなので、気にしないでください!!」

「……」


 俺は、そう言う七星の服の右腕部分に軽く触れる。


「ぇっ!?と、人色さん!?」


 突然右腕に触れられて驚いた表情をした七星のことを気にせずに、俺は確認できたことをそのまま口にする。


「……十分、か」

「っ……!?」


 十分というのは、七星がここで俺のことを待ってから何分経ったのかを予測して言ったことで、今の七星の反応からもほとんどそれが間違いないだろう。

 それが確認できたことによって俺が七星の服から手を離すと、七星が困惑した様子で言った。


「ど、どうしてわかったんですか……?」

「簡単だ、黒の服は日光を吸収する……それもこんな真夏じゃそれが顕著で、生地によって違いはあれど触った時の温度で大体の時間がわかる」

「さ、流石人色さんですね……でも、今来たばっかりって言われたら普通はそのまま流して特に気にせず一緒に目的地に行くのが普通ですよ!」

「こんな暑い中太陽に当てられて十分も立ってた七星のことを流すようなことができるわけないだろ?もし熱中症になったらどうするんだ」


 俺が真面目にそう返答すると、七星は目を見開いて言った。


「っ……!も、もしかして、私の体調を心配してくれてたってことですか?」

「それ以外何があるんだ?というか、今後はもう……色々と言いたいことはあるが、ひとまずそこにあるコンビニで水を買うついでに涼ませてもらうことにしよう」

「……はい」


 七星は、頬を赤くしてそう返事をした。


「……七星、顔が赤いようだが本当に大丈夫か?もし熱があるなら────」

「だ、大丈夫です!本当、大丈夫ですから!」

「そうか、それならいい」


 熱が出ているかどうか確認しようかとも思ったが、もし熱があるなら今こうして明るく振る舞うことすら取り繕うという形になってしまうだろうが、今の七星からは取り繕っているといった空気感は感じないため、俺は七星の言葉を信じてそのまま七星と一緒にコンビニの中へ入った。



◇七星side◇

「コンビニの中は涼しいですね!」

「あぁ」


 七星は、今の自らの照れているという感情を表面上誤魔化すようにそう声を発した……まだ霧真と出会ってから数分程度しか経っていないにも関わらず、もうすでに心臓の音がうるさい。

 ────ど、どうしよう、いつもだけど、今日の人色さん見た目から振る舞いとか優しさまで含めて全部本当にかっこいい……ていうか、会うたびにかっこよさが更新されてる……!ていうか、人色さんが待ち合わせに遅れたわけじゃなくて、ただただ私が早く来ちゃっただけなのに、何も嫌そうな雰囲気を出さずむしろ自分からコンビニで涼むことを提案してくれるとか……あ〜!心の中だったらもうどれだけ言っても良いよね!好き〜!人色さん、好き!!

 そんなことを思いながらも、表面上はどうにか少し口角を上げているぐらいに留めながら霧真と一緒に水の置いてある場所にやって来た七星が水を取ると、その直後に霧真が言った。


「そういえば、待ち合わせ場所に来た時も思ったことだが、七星のピアスをしてる姿は初めて見たな」


 ────気付いてくれてる……!人色さんそういうの鈍そうなのに……!……でも、鈍そうなのに気付いてくれたりするから、余計良いっていうか……好きになっちゃうよ〜!

 そんなことを思いながらも、しっかりと返事をする。


「は、はい!今日は付けてみました!」

「そうか、七星は本当になんでも似合うな」


 ────なんでも似合うな……?それって、ピアスが似合ってるって褒めてくれたってこと!?ていうか、なんでもってことは他のも含めて!?あぁ、嬉しい……どうしよ、ていうか私今日ただでさえ夏休みに人色さんと二人で出かけられるっていうだけでテンション上がってたのに、人色さんにこんなに優しくされちゃったら……もう人色さんのことしか考えれないよ!

 そんなことを思っていると、七星の視界の端にある物が映った。

 薄────ミリ────個入。

 ────きゃあぁぁぁっ!人色さんのことしか考えられないって、別にそういうこと考えたいわけじゃないのに!ていうか、せっかく人色さんが私と出かけるために時間作ってくれてるのにこんなこと考えてたら失礼じゃん!私のバカ!!

 その後、七星は大きく首を振り、少しの間霧真と一緒にコンビニ内で涼んでいくと、水を購入して今日の目的地────映画館へと向かった。

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