第60話 恋愛相談

「恋愛相談……!?聞く聞く!え、七星ちゃんって今誰か好きな人居るの!?」


 水城先輩はとても楽しそうな声音でそう言うと、七星は照れたような恥ずかしいような雰囲気で頬を赤く染めて口元に人差し指を立てて言った。


「あ、葵先輩!声が大きいです!」


 そして、人差し指を立てるのをやめると少し間を空けてから言った。


「えっと……す、好き……な人じゃなくて、気になる人です」

「あ~!そうなんだ~!最初から話の腰折っちゃってごめんね?七星ちゃんは、私たちにどんな相談したいの?」


 水城先輩がそう聞くと、七星は相変わらず恥ずかしそうにしながらもそれに答えた。


「この夏、その気になる人とたくさん出掛けられることになったので……二人には、どうしたらその人にもっと……異性として見てもらえるのかっていうのを、相談したくて……」

「そういうのあるよね~、でも、七星ちゃんみたいな可愛い子だったら相手の人も七星ちゃんのこと少なからず異性として見てると思うよ?」

「ぜ、全然そんなことないです!本当に、なんていうか、変わった人っていうか……普通の男の人とどこか違って、そこに惹かれたっていうのもあるにはあるんですけど、逆にそれが壁になってるみたいな感じで……」


 七星がそう言うと、水城先輩は少し考えた素振りを取ってから言った。


「ちょっと考えてみたけど、やっぱり七星ちゃんは異性として見られるっていうのを意識しすぎて動くより、そのままの七星ちゃんで良いんじゃないかな」

「でも、それだと今と変わらな────」

「変わるよ……七星ちゃんが好きになった人なら、その人は優しい人なんでしょ?……七星ちゃんが初めてその人と出会った時のその人と今のその人は、変わってる?」

「っ……!」


 七星は、その言葉に思うところがあったのか小さな声を漏らした後で、少し間を空けてから言った。


「はい!最初に比べたら、とても、とても仲良くなれたと思います!」


 すると、水城先輩は優しい表情で言った。


「だったら、やっぱり七星ちゃんはそのままで良いんだよ……そのままその人に振り向いてもらうために頑張り続けたら、優しいその人も七星ちゃんの気持ちに応えてくれるはずだから」

「葵先輩……!ありがとうございます!」

「七星ちゃんより一つ年上だから、このぐらいはね~」


 七星がお礼を言うと、水城先輩は得意げな表情を見せた。

 ……水城先輩が年上の人だと感じることは時々あるものの、今の七星との会話の中では特にそれが色濃く表れていたな。

 水泳に対してとても熱心な思いを抱いていて、普段はどこかふざけた調子で居ながらも、相手が真面目な話をしている時にはしっかりとそれに合わせた雰囲気で話せる女性……それが、水城葵。

 俺がそんなことを思っていると、七星が言った。


「実は、この間その人のことを家に招いて、その……そういうことをしたいと思って遠回しに誘ってみたんですけど、いきなりだったので変な空気になっちゃって、その人の優しさもあってそこまで気にしてたわけじゃないんですけど、心のどこかで気になってる部分もあったりしたので、それが今水城先輩のおかげで完全に晴れた感じです!相談に乗ってくれてありがとうございます!」


 耳が痛い。


「そ、そこまでしてたの!?ていうか、その相手も七星ちゃんにそこまでさせてるのに手の一つも出さないなんて、それは七星ちゃんにとって辛いことだって気づかなかったのかな?」


 本当に耳が痛い。


「そ、その人は悪くないんです!まだ付き合ってもないのにいきなりそんなこと誘った私が悪いんです!」

「だとしてもだよ!」


 水城先輩はそう言うと、続けて俺に向けて言った。


「君は、もし女の子が頑張ってそういうこと誘おうとして来てたらちゃんと応えてあげないとダメだよ?」

「……はい」


 ここではいと答えていいのかわからなかったが、耳が痛い話が続きすぎて俺にはもはや言われたことに対して頷くぐらいのことしかできなかった。


「もしかしたら色人くんのこと好きな人がすぐ傍に居るかもしれないから、そこまでのことじゃないとしても、ある程度のところまでは本当考えておかないとダメだよ」


 水城先輩は、どこか落ち着いた口調でそう言った。

 その雰囲気に何か意味があるのかはわからなかったが、特にその口調の変化を気にしていない様子の七星が言った。


「真霧のこと好きな人……少なくともクラスじゃ聞いたことないかな~」

「え、そうなの?」


 水城先輩は、驚いたようにそう聞くと七星が頷いて言った。


「真霧のこと嫌いって人も居ないと思いますけど、好きって人も多分居ないと思います……私もたまたま真霧と関わる機会ができて真霧が面白いって気付けたから今後も友達として関わっていきたいと思ってますけど、真霧って目立たないからそれまではあんまり気にして無かった感じだったので、他の子もそうだと思います」

「嘘……!?あんなにかっこいい色人くんが目立たないなんて、いくら特高って言っても高校生でそんなことあるの!?」

「葵先輩……?え、どういうことですか……?真霧が、かっこいい……?」

「……あぁ、そっか、そういうことね」


 ────俺は、この流れは俺にとってまずいものになると判断して、その会話に割り込むことに決めた……が、水城先輩は何かに納得したようにそう言うと、七星と隣になって座っていた席を立って対面に座っている俺の方までやって来て言った。


「七星ちゃんは知らないかもしれないけど、色人くんって前髪上げたらすっごくかっこよくなるんだよ?色人くん、七星ちゃんにそのこと教えてあげたいから、ちょっと試しに前髪上げてみてくれない?」

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