第59話 一学期終業式打ち上げ

「────終わった~!今日から夏休み~!」


 今日は特待別世高校の一学期終業式……だったが、たった今それが終わり、俺の隣で校門を目指して一緒に歩いている七星はとても嬉しそうな声音とハイテンションでそう言った。


「そうだな」


 俺がそれに対して短く返すと、七星は驚いた表情で言った。


「そうだなって、今日から夏休みなのにそれだけ!?まぁ、真霧はそんな感じだろうとは思ってたけど……あ!でも、前から言ってるけど、今日はこの後で葵先輩も含めて三人で一学期終業式打ち上げするんだからしれっと帰ったりしないでよ?」


 そう、俺は7月の一週目が終わったあたりから七星と水城先輩の一学期が終わったという名目で行われる打ち上げに参加するように言われている。

 今校門に向けて歩いているのは、当然学校から出るためというのもあるが、それに加えて水城先輩との待ち合わせ場所でもあるからだ。


「帰りはしないが、どうして俺まで誘われたんだ?打ち上げっていうことなら、同性だけの方が色々と話しやすいと思うが」

「何言ってるの!真霧は私と葵先輩を友達にさせてくれたきっかけだし、この一学期は色々と真霧に相談乗ってもらったから、私の打ち上げには真霧が居ないと始まらないよ!!」

「……そうか」


 そこまでの熱量を持って言われたら、俺も返せる言葉が無いな。

 俺は改めて七星からの誘いを受け入れることに決めて、一緒に校門へと歩いて行った────すると、そこには水城先輩の姿があり、水城先輩の姿を発見した七星は小走りに駆け出して言った。


「葵先輩!」


 すると、その七星の声に気付いたらしい水城先輩が七星の方を向くと、水城先輩も大きな声で言った。


「七星ちゃん!終業式お疲れ様~」

「お疲れ様です!終業式の間ってあんまり動けないので、今解放感すごいです!」

「私も~」


 その後、二人は流れるようなテンポで少しの間会話を続けた。

 俺がそんな二人の会話をなんとなく聞きながらそのまま歩いて二人の元へ行くと、水城先輩が俺の方を向いて言った。


「君もお疲れ様」

「お疲れ様です、水城先輩」

「もう~!相変わらず君は堅いね~!そんなに堅い君のことは、ちゃんとお姉さんが解してあげないとだよね~!」


 そう言うと、水城先輩は恒例通り俺のことを抱きしめようとして来た────が、俺はそれをしっかりと回避する。

 その光景を見た七星は、慌てた様子で言った。


「あ、葵先輩!?何してるんですか!?」

「何って、一種のコミュニケーション?」

「だ、抱きしめるのが、コミュニケーション……!もしかしたら、私にはそういう大胆さが足りないのかな……もうちょっと……」


 七星は、感銘を受けたように何かを小さな声で呟き始めた。

 俺は一体今の言葉のどこに感銘を受けたのか一切わからなかったが、こんな太陽の出ている暑い日差しの下でずっと立って話していたら誰かしらが体調を崩してしまいかねないため、俺は言った。


「こんなところで立ち話し続けるわけにもいかないから、打ち上げに行くなら早く行こう……場所はもう決まってるのか?」


 すると、何かをずっと呟いていた七星ははっとした様子で言った。


「も、もちろん決まってるよ!うん、確かにこんなところで立ち話し続けてもあれだし、早く行こっか!」

「あぁ、そうしよう」


 その後、七星を先頭にしてその後ろに俺と水城先輩は隣り合わせになって歩くという形で打ち上げ場所に向かうことになったわけだが……


「水城先輩、俺と水城先輩の距離が近いような気がするのは気のせいですか?」

「うん、君の気のせいじゃないかな?」


 通路の広さには余裕がある中で、少し動けば肩と肩が当たりそうなほどに水城先輩の方が俺に寄ってきているが、これは気のせいなんだろうか。


「……だとしても、もう少し横にスペースあると思うのでそっちの方に行ってもらえるとありがたいんですけど」


 純粋に肩と肩がぶつかりそうだったため俺がそう言うと、水城先輩は明るい声色で言った。


「もう~!君も思春期の男の子だね~!そういうことなら、お姉さんが君の後ろ歩いてあげる!それでいいでしょ?」


 後ろ……まぁ、それなら近いも何も無いか。


「はい、それでお願いします」


 俺がそう言うと、水城先輩はそのまま本当に俺の後ろを歩き始めた。

 これで一安心────と思った瞬間、俺は突如背中に大きな柔らかい感触を感じたかと思ったら、水城先輩に抱きしめられ、水城先輩は俺の耳元で甘い声を出し、囁くように言った。


「油断したらダメだよ?ちょっとでも油断しちゃったら、お姉さんがまたこうして君のこと捕まえちゃうからね」

「っ……!」


 俺はすぐに水城先輩のことを振り解くと、水城先輩は楽しそうな表情でまたも俺の隣を歩いてきたが、今度はしっかりと一定の距離を置いていた……やられたな。

 まさか歩行中に自らの後ろでこんなことが行われているとは思ってもいないであろう七星は、そのまま俺たちのことを先導すると────


「着いた~!」


 しばらく歩いてから、オシャレな雰囲気の二階建て飲食店の前で足を止めた。

 その建物を見た水城先輩が言う。


「オシャレだね~」

「そうですね」


 そして、俺たちはそのオシャレな雰囲気……というか、オシャレな飲食店の二階へ足を運ぶと、それぞれ料理を注文した。

 すると、それから少し間を空けてから、七星は頬を赤く染めてどこか緊張した様子で口を開いて言った。


「真霧、葵先輩……今からちょっとだけ、二人に恋愛相談しても良いですか?」

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