第57話 お姉さんが
しばらくの間水城先輩から抱きしめられた俺だったが、その長い時を経てようやく解放され、もう今日は十分泳いだということで俺と水城先輩はそれぞれ男女用の更衣室で着替えた。
そして、互いに着替え終えて一緒に建物からると、俺の隣を歩いている水城先輩が俺に言った。
「色人くん、今日は本当にありがとね〜!」
「俺の方こそ楽しかったので、ありがとうございます……次は一緒にジムに行くんでしたね」
俺が一応次に水城先輩と会う時の予定を確認しておくことにすると、水城先輩はその俺の言葉に対して頷いて言った。
「うん!あと二週間ぐらいで夏休みに入るから、それは夏休み入ってからでお願いしてもいい?」
「わかりました……けど、今日俺が水城先輩の練習に付き合った主題でもある、高校生の個人で行われる本格的な大会に向けた練習で水城先輩は結構忙しいんじゃないですか?」
「それはもちろん忙しいけど、一日ぐらいだったら……ていうか!ジムに行くのだって体力作りの一環だし、それに……君と居れるなら、予定なんて何日でも空けるよ」
俺と居れるなら、という言葉の意味が一瞬わからなくなりかけたが、俺はすぐに水泳練習をすることだと認識して言う。
「俺も水城先輩との水泳練習は本当に楽しかったので、また練習したいときは誘ってください」
「えっと……嬉しい、けど、なんか伝わってない……?まぁいいや、うん、その時はまたがっつり二人で練習しようね!」
「はい」
今後のこともある程度まとまったところで、水城先輩が間を空けて言った。
「ていうか、君水泳部入らない?水泳部に入ってくれたら、毎日放課後とか一緒に練習できるし、大会だって普通に一緒に参加できるようになるよ!」
確かに、俺が水泳部に入ったらそういった楽しい要素もたくさんあるのかもしれない……が。
「お誘いはありがたいんですけど、断らせてもらいます」
「やっぱり?君どの部活にも入ってないみたいだもんね〜、でもどうして?」
「部活にあまり良い思い出が無いだけです」
「……そうなんだ〜」
そして、そろそろ俺たちが待ち合わせを行なった場所に到着したが、俺と水城先輩はそこから帰り道が分かれるみたいだ。
「じゃあ水城先輩、また学校か夏休みに」
「うん……ねぇ、色人くん、一つだけ言いたいことがあるの」
そう言うと、水城先輩は俺のことを抱きしめようとする素振りをとった。
いつもであれば迷わず避けているところだが────水城先輩のその優しい表情や声音を聞くと、今回は避ける気にはなれず俺はそのまま水城先輩に抱きしめられた。
そして、水城先輩は俺の耳元で続けて優しい声音で言う。
「君が辛くなった時とかしんどくてもう堪えられないってなった時は、お姉さんに言ってね……その時はこうして、お姉さんが君のこと包んであげるから」
「……急に、どうしたんですか?」
「……ううん、気にしなくていいよ」
そう言うと、水城先輩は俺のことを抱きしめて俺から距離を取ると、俺に手を振って言った。
「色人くん!またね〜!」
「はい、また」
そう別れの挨拶をすると、俺は帰り道を歩き始めた。
さっき水城先輩が突然あんなことを言ってくれたのは、おそらく俺の顔に俺の感情が出てしまっていたからだろう。
「……」
俺はひとまず過去を振り返るのをやめて、この夏の予定を脳内でまとめておくことにした────それから二日後の月曜日。
俺は学校に登校すると、やたらと焦った様子の七星に屋上に連れられた。
「どうしたんだ?朝からそんなに慌てて」
俺がそう聞くと、七星は俺が今言葉にしたまま慌てた様子で言った。
「慌てもするよ!本当に大変なことが起きてるかもしれないんだから!」
本当に、大変なこと……?
「どんな話だ?」
全く話が見えないため俺がそう聞くと、七星は焦燥感、不安感、緊張感を含めた大きな声で言った。
「もしかしたら、私の好────気になる人に彼女が居るかもしれないの!!」
……え?
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