第52話 私の
七星の家に行った翌日、学校に登校すると俺はいつものように七星から屋上へ誘われた……そして、七星は話し始める。
「前に言った通り、昨日私の気になる人を家に上げたの……真霧にはちょっと聞きづらいような相談にも乗ってもらったから、一応どうなったかだけでも伝えておこうと思って」
「わかった」
今となっては全ての意味が分かっているから、前に真霧色人として七星に準備はしておいた方が良いのかと聞かれたことなど、あの時の会話内容を思い出すと少し気まずくなるが、俺はどうにかそれを表に出さないようにしながらそう言った。
すると、七星が明るい表情で言う。
「結果から言うと、準備が必要になるようなことにはならなかったんだけど……今まで以上にあの人の優しさを感じられて、とっても嬉しかった……」
「……そうか」
「うん、それでね?その私の気になる人が、夏にたくさん一緒に出掛けようって言ってくれたの!だから、今の私の心情を一言で伝えると────超楽しい!ていうか、早く夏休みなって欲しい~!!」
そう言いながら、七星はその場で身振り手振りをしながら自らの現在の感情を最大限表した……が、少しそうしてから動きを止めて口を開いて言った。
「……今までは気になる人って言ってたけど、もう……ううん、前からそうだったのかもしれないけど、今は気になる人なんて言葉じゃもうこの気持ちを表せないよ……あの人はもう、私の気になる人じゃなくて私の好……」
「……す?」
「好……き……ダ、ダメ~!恥ずかしくて言えない!!」
七星は俺には聞こえないほど小さな声で何かを呟いたと思ったら、直前とは比較にならないほど大きな声を上げながら屋上から出て行った。
「私の気になる人じゃなくて私の……す?」
まるで回答の無い問題だけ残されたような感覚に陥ったが、すという一文字だけでその続きの言葉を当てることのできる人間なんてこの世界に早々居ないと思われるため、俺も一文字だけでその続きの言葉を当てることができない人間として潔くその続きを考えることは諦めて教室に戻ることにした。
そして、その日の放課後。
「……これでいいか」
俺は、土曜日の水城先輩との水泳練習のために適当な水着とゴーグルを買い────その数日後。
今日は土曜日、いよいよ水城先輩と水泳練習を行う日だ……待ち合わせ時間が朝の7時だと聞かされた時は少し驚いたが、朝早起きをすることに対して抵抗感は特に無かったため、俺は朝の6時前に起きて水城先輩との待ち合わせ時間に間に合うように家を出た。
そして、待ち合わせ場所に到着すると────
「色人くん、おはよう~」
そこには、もうすでに白のズボンに水色の肩だしトップスを着た水城先輩の姿があった……本職の七星に比べればかなりシンプルなコーデだったが、水城先輩はそのシンプルなコーデすらとても大人びた綺麗な服に見えるように着こなしていた。
そんな分析をしながら、俺は水城先輩に挨拶を返す。
「おはようございます、水城先輩」
「うん!本当朝早くからごめんね~、時間ずらすこともできたんだけど、朝練するのが習慣になってて」
「いえ、特に問題ありません」
俺が朝起きることが苦手なタイプだったならともかく、別にそういうわけではないためそれなら水城先輩の習慣を崩さないことを優先すべきだろう。
「何の文句も言わずにこんな朝早くから私との待ち合わせを守ってくれた君には────特別に!朝から幸せなお姉さんからのハグをプレゼントするね~!」
そう言うと、水城先輩は俺のことを抱きしめようとしてきた────が、俺はそれを回避しながら言う。
「それで、今日はどこで練習するんですか?」
「お姉さんからのハグ避けながら平然とそんなこと聞く!?」
そう声を上げた後に水城先輩は溜息を吐いたが、水城先輩はすぐに俺の問いに答える。
「今日は、街にある大きなプールで練習するよ……それならお姉さんと二人きりの練習じゃないんだ、ってガッカリしたと思うけど、そんな君に朗報があるよ!」
一言もそんなことは言っていないし思ってもいなかったが、俺が水城先輩の次の言葉に耳を傾けていると水城先輩が言った。
「実は!この前私たち特待別世高校が水泳大会で優勝したからっていう理由で、今日行くプールは貸し切り状態なんだよね~」
プールを貸し切り……それは素直にすごい話だと感じたため「それはすごい話ですね」と相槌を打つと、水城先輩は頷いて言った。
「うん!だから二人だけの水着姿の空間で一緒に練習していこうね!一応言っておくけど、二人だけの水着空間だからってえっちなこととか考えたらダメだよ~?」
「……はぁ」
まだ待ち合わせ場所で話しただけなのに、なんだか一気に疲れたような気がする……俺は、今日のこの先が思いやられながらも、水城先輩と一緒に街にあるという大きなプールへ向かった。
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