第50話 人色さんのことを
「七星?どうかしたのか?」
頬を赤く染めて俺のことを見つめてくる七星の様子が不思議だったので俺がそう聞くと、七星は動揺した様子で言った。
「え、えっ!?えっと……と、人色さん、い、今のって、何か他に意味があったりするわけじゃなくて、言葉通り毎日食べたいぐらい美味しいっていう比喩みたいな感じで言ってくれたんですよね?」
「もちろんそうだが……あぁ、そういうことか」
もしかしたら、俺が「毎日食べたいほどの美味しさだ」なんて伝え方をしてしまったから、毎日作れ、とまでは言わないまでも毎日作って欲しいと捉えられたのかもしれない。
俺は、その誤解を無くすために言う。
「毎日食べたいほど美味しいとは言ったが、当然毎日作って欲しいなんて言う気は無い、シンプルに美味しいと伝えたかったんだ、変な言い方をして悪かったな」
「い、いえ!そういう風に感じたわけじゃないので大丈夫です!ただ、毎日食べたいっていうのはプロポーズとかでよくあったりなかったりのイメージがあったりなかったりして驚いちゃったっていうか……な、なんでもないです!」
七星は、俺には聞こえない声で何かを呟いてから大きな声でそう言った……明らかに様子のおかしい七星のことが気になりはしたが、なんでもないということらしいためそのことを聞き返すような事はしなくていいだろう。
「そうか、それなら一緒に七星の作ってくれたこの美味しい料理を食べよう」
「お、美味しい……!は、はい!是非!」
その後、俺と七星は一緒にご飯を食べ始めた……そして、二人で料理を堪能していると、俺は言っておくべきことを言う。
「それにしても、七星は本当に料理が上手なんだな……あの時は思わず疑いの目を向けてしまったが、こんなに美味しいなら俺は謝らないといけない」
「気にしなくていいですよ!私は人色さんが私の料理を美味しいって思ってくれたなら、それだけで十分です!」
「そうか」
「はい!」
七星は、笑顔でそう言った。
……俺は一瞬その七星の笑顔に目を奪われそうになったが、すぐに料理の方に意識を戻して七星の作ってくれた料理を食べることにした。
────それから約10分後、俺と七星は二人で七星の作ってくれた料理を美味しく食べ終えた。
「本当に美味しかったな、ありがとう七星」
「私の方こそ、美味しいって言ってもらえて嬉しいです!……人色さんさえ良ければまた、私の料理食べてくれますか?……私の家で」
「あぁ、是非食べさせてくれ」
「っ……!はい!」
俺がそう答えると、七星は大きな声でそう言ってから嬉しそうに口元を結んだ。
……初めての異性の家で何かしてはいけないことをしてしまったらどうしようかと少し不安もあったが、終わってみれば普段七星と過ごす時間と一緒でただただ良い時間だったな。
「じゃあ七星、約束通り七星の作ってくれた料理も食べ終えたし、俺は帰ることにする」
そう言って俺がソファから立ち上がると、七星も急ぐように立ち上がって言った。
「ま、待ってください!」
七星にそう言われた俺が七星の方を向くと、七星はどこか照れた様子で言った。
「と、人色さん……良かったら、私の部屋に来ませんか?」
「……え?」
七星の部屋に……俺が?
「どうしてだ?」
俺が七星の部屋に入る理由が思い当たらなかったため、純粋にそう聞くと、七星が相変わらず照れたように頬を赤く染めたまま言った。
「えっと……あ、あとちょっとで期末試験があるんですけど、私英語以外全然ダメなので、もし良かったら頭良さそうな人色さんに勉強教えて欲しいなって……」
そういえば、以前中間テストの時に真霧色人として七星に勉強を教えたが……今度は霧真人色として、か。
「……」
水城先輩が、友達のままで居たいなら相手の自室、今回のケースで言えば七星の自室に入ってはダメだと言っていたな……あの言葉の意味はわからないが、今回は勉強目的のためあの言葉は特に気にしなくても良いだろう。
勉強をするだけなら、場所なんてどこでも関係ない。
「わかった、教えよう」
「ありがとうございます……!」
俺が七星からの提案を受けることにすると、俺と七星は早速七星の自室へ向かった────そして、そのドアの前までやって来ると……
「ここが私の部屋です!空けますね!」
「あぁ」
七星は、そう言ってその部屋のドアを開けた。
俺と七星は、二人で一緒に七星の部屋へ入る。
七星の部屋の内装は、丸のローテーブルに化粧台にベッド、ブラウンのカーペット、全身鏡、木製のコートハンガーや観葉植物、本棚、そして西洋を感じさせるランプのような電気と、とにかくオシャレな雰囲気だった。
「オシャレな部屋だな」
「あ、ありがとうございます!じゃ、じゃあ私、勉強に必要なものテーブルの上に出しちゃいますね」
「あぁ」
その後、七星は筆記用具や教科書、ノートなどをテーブルの上に出した。
「七星は、どの教科が苦手なんだ?」
七星の苦手科目が数学であることは知っているが、それは真霧色人として得た情報……前は感情的になってしまってそこでボロが出かけたが、もうそんなミスはしない、こういう細かいところこそ丁寧にだ。
俺がそう聞くと、七星はそれに答えた。
「数学です!前の中間テストはどうにか乗り切れたんですけど、今回の期末テストは乗り切れるかわからなくて……」
「そうか、そういうことなら俺が数学を重点的に教えよう」
「ありがとうございます!」
そして、俺は宣言通り七星に数学を教え始め……しばらく経つと、七星は数式を解く手を止めた。
「何かわからないところでもあったか?」
「い、いえ!そういうわけじゃ、ないんですけど、その……ちょ、ちょっと休憩しませんか?」
……七星に数学を教え始めてから一時間弱。
一時間弱の勉強時間を長いと感じるか短いと感じるかは人それぞれだろうが、苦手科目の一時間弱というのは脳が疲れてしまってもおかしくない時間だ。
「わかった、休憩しよう」
「あ、ありがとうございます!」
そして、俺と七星は隣り合わせで七星のベッドにもたれかかる形で休憩を取ることになった。
すると、七星は俺のことを見ながら言った。
「人色さんの教え方、本当にわかりやすいです!人色さんって運動も勉強もできて、本当になんでもできちゃいますよね!」
「そんなことは無い……それこそ、七星のモデルやドラマ出演なんかで必要な演技とかは俺には備わってないものだ」
「……人色さんって、優しいですよね」
七星は優しい声音でそう言うと、続けて言う。
「私のことを助けてくれたり、どんなことでもできちゃうのにとても絶対に私のことも褒めてくれたり、気遣ってくれたり……人色さんと出会ったばかりの春頃は、色々と精神的に辛かったりもしましたけど、それ以上に楽しくて……今は本当に、人色さんと関わり続けることを諦めなくて良かったって思ってます」
「七星……」
俺がその七星の優しい声音や言葉の無いように思わず聞き入っていると、七星は突然俺のことを抱きしめてきて甘い声で言った。
「前にも言った通り、私……そんな人色さんとなら、どんなことでもしたい、ので……人色さんさえ良かったら……もっと深く、人色さんのことを……私に、教えてくれませんか?」
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