第48話 マンション

「どう、というのは?」

「例えば、一番わかりやすいので言うと恋人になりたいとかかな、あとは純粋にそのまま友達で良いとか」


 そういう意味で、今回で言うと俺が七星とどうなっていきたいか、ということか……俺としては当然、七星のような目立つ存在と恋人になったりしたら日常が大変なことになってしまうため、七星と恋人になりたいとは考えていない。

 だが、それはあくまでも俺の平凡に暮らしたいという目的から考えたうえでの論理的な考えだ……感情という側面で見た場合、明るく元気だが、相手の心情の変化を察知するのが上手でその相手を慰めることのできる優しさも持ち合わせている七星一羽のことを、俺はどう思っているんだろうか。


「……」


 と考えてみたが、今は感情なんて関係無いか。

 少し前に感情的に行動して痛い目を見たばかりだ、また同じ過ちを繰り返してしまうわけにはいかない。

 俺は七星に対して感情的にはどういった感情を抱いているのかという思考を中断すると水城先輩に答えた。


「友達のままで居たいです」

「なんか間があったような気がするけど、本当に?」

「色々考えようとしてみましたけど、単純にこれが答えでした」

「ふ~ん?まあいいや、じゃあそれに沿ってお姉さんが君の相談に乗ってあげるけど……友達のままで居たいなら、絶対にその女の子の家の自室に行ったらダメだよ」


 友達のままで居たいなら、相手の部屋には入ったらダメ……?


「答えてもらってありがたいですが、俺だって勝手に人の部屋に入るような野蛮人ではありません」


 俺がそう答えるも、水城先輩は首を横に振って言った。


「そういう意味じゃなくて、例えその女の子と一緒だとしても、ていうか友達のままで居たいっていう意味で考えるならむしろ一緒の時の方が入ったらダメ」

「どうしてですか?」

「どうしてって……もう!わかってるくせに!」


 そう言いながら、俺の肩を二回だけ軽く叩いてきた……本当にわかっていないが、ここでさらに深く聞いても答えてくれそうな雰囲気ではないな。

 俺がそう判断して口を閉ざしていると、水城先輩が言った。


「まぁ、他は常識的にしてたら大丈夫だと思うよ、たまに緊張したり逆にテンション上がっちゃったりして変になる男の子も居るみたいだけど、君はそういう感じじゃないしね……そうだ、それっていつの話なの?」

「今週の日曜日です」

「良かった~!それなら私との水泳練習はその来週の土曜日だから、君がどれだけその女の子とイチャイチャしても支障は出ないね~」

「イチャイチャなんてしません」

「冗談だよ……それより、話がそれだけなら今からお姉さんと二人で一緒にお姉さんの水着選びに────」

「今日は貴重な放課後の時間を俺の相談に乗ってくださる時間に使ってくれてありがとうございました、失礼します」


 俺は厄介な話になりそうな前に、そう言って速やかに屋上を後にした。


「……」


 俺が七星とどうなりたいか。

 その質問が、俺のどこかに棘のように刺さって残り続けていた。

 ────日曜日。

 今日はいよいよ七星の家に、霧真人色として行く日だ……七星の家の位置情報はメッセージでもらっているため、俺は髪を上げたヘアセットをして服装を整えると早速七星の家へ向かうことにした。


「……ここか」


 歩くこと約10分。

 俺は、七星に送られてきた位置情報の場所までやって来ていた……目の前には、聳え立つ綺麗なマンションがある。


「確かここの7階、701号室だったな」


 俺は、エントランス入口に置いてあったオートロックの端末に近付くと、その目の前までやってくると、七星の家の号室『701』と入力して呼び出しボタンを押すと、すぐにその端末から声が聞こえてきた。


『はい!』

「霧真だ」

『と、人色さん……!す、すぐ開けますね!』


 七星がそう言うと、エントランスのドアが開いた。


『これで入れると思います!』

「あぁ、ありがとう、すぐに行く」

『わかりました!』


 そんな短いやり取りを終えると、俺はエントランスの中に入ってエレベーターに乗った……俺がエレベーターの綺麗さに感心を抱いていると、あっという間に7階に到着したため、エレベーターを降りて七星の家の前までやって来た。

 そして、今度は七星の家と直結しているインターホンを押すと『今出ます!』という声がインターホンから聞こえてきて、すぐにドアが開いた────すると、そこには以前試着していたうちの一着である黒ニットの女性用タンクトップに白の短パン、そして透けた白のカーディガンを着ている七星の姿があった。


「その服、やっぱり似合ってるな」

「っ……!あ、ありがとうございます……!じゃあ、その……上がってください!」


 七星は緊張している様子だったが、頬を赤く染めながらもそう言ってくれたので、俺は七星と一緒に七星の家の玄関に入った。

 ────この時、俺は七星が緊張しているのは異性を家に上げるからで、頬を赤く染めているのは俺が七星の服を褒めたからだと思っていた……が、その理由がそれだけで無いことを知り、俺はこの後自らの思考の幅の狭さを再度後悔することとなった。

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