第47話 相談

 俺が真霧色人として試着室に到着すると、最後に七星のことを見た時は試着室に入っていたはずだが、その七星が試着室から出てきていて俺に言った。


「やっと戻って来た!」


 そして、続けて言う。


「一瞬とか言ってたくせに、遅くない?遅くなりそうなら遅くなりそうって言ってくれれば良かったのに」

「悪い」


 これに関しては、七星からしてみれば一瞬と言って抜けたのに、数十分も戻って来なかった真霧色人がどう考えても悪いため素直に謝る他無い。

 俺がそう謝罪すると、七星が言った。


「まぁ、そのおかげかはわからないけど私としては良いことがあったから今回は特別に許してあげる!」

「そうか」


 その良いことについて俺が言及するのは、例え俺が霧真人色だとバレていなかったとしても自分自身でなんだか少し恥ずかしい気持ちになってしまいそうなため、言及するようなことはしない。

 俺がそう考えていると、七星が五着の服が入ったカゴを見せてきて言った。


「私、この五着買うことに決めたの!」

「俺が試着を見るって話じゃなかったか?」

「最初はそのつもりだったけど、もう大丈夫!私これ買ってくるから、真霧もついてきて!」

「わかった、カゴは俺が持とう」

「ありがと〜」


 俺は七星から五着の服が入ったカゴを受け取ると、七星と一緒にレジへ向かい、七星は本当にその五着の服を購入した。

 そして、その帰り道。


「そうだ真霧、別に今日のこと責めてるわけじゃないんだけど、今日みたいなことが無いように一応連絡先交換しておかない?」


 連絡先……俺は一般男子高校生のため、スマートフォンは一台しか持っていない。

 そのため、七星と水城先輩それぞれであれば問題なく連絡先を交換することができたが、すでに霧真人色として連絡先を交換している七星が相手では、俺は真霧色人として連絡先を交換することはできない。


「……悪いが、また今度でも良いか?久しく誰とも連絡先を交換してないから、交換方法を忘れててな」


 俺がそう言うと、七星は小さく笑いながら言う。


「あはは、何それ!でも、それだったら私がやってあげる────けど、もう放課後でそろそろ夜だし、別に今じゃなくても学校の時とかでいっか」


 ということで話が落ち着くと、俺と七星はそれから少しの間一緒に道を歩いた。

 そして、俺はある場所で立ち止まると七星に言う。


「俺はこっちだ」

「おっけ〜!今日は結局ついて来てもらっちゃっただけになったけど、ごめんね?いつかちゃんと真霧にも手伝ってもらう時が来ると思うから、楽しみに待ってて!」

「……あぁ、楽しみにしてる」

「もう!絶対楽しみにしてないじゃん!じゃあ、また学校でね!」


 そう言うと、七星は笑顔で俺に手を振って帰り道を歩いて行った。

 ……少しだけ暗くなってきたが、まだ夕方と呼べる明るさでこの辺りの人通りも多いため七星の身を案ずる必要は無いだろう。

 そう判断した俺は、七星と帰り道が被らないようにいつもよりも少し遠回りをして家に帰った。

 ────金曜日。

 俺が霧真人色として七星の家に行く二日前。

 俺は、ある人物のことを屋上へ呼び出していた。


「────まさか、君の方から私のことを呼び出してくれるなんて思ってなかったからお姉さん驚いちゃったよ〜」

「来てくれてありがとうございます、水城先輩」


 俺は、俺が呼び出した相手水城先輩にそうお礼を言った。

 今日水城先輩のことをわざわざ呼び出したのは、七星の家に行く前に念のために聞いておきたいことがあったからだ。

 俺からのお礼の言葉を聞いた水城先輩は、自らの胸元を隠すような素振りを見せると言った。


「君がお願いしようとしてることをここでするのは恥ずかしいから、更衣室とかどこか個室とかでも良い?」

「俺が今から話すことに対してどんな予測を立ててるか知りませんけど、少なくとも今水城先輩が想像してるようなことだけじゃないのは確かなのでここで大丈夫です」

「な〜んだ、そうなんだ……それで?どうしてお姉さんのこと屋上に呼び出したの?」


 水城先輩が胸元を隠す素振りをやめてそう聞いてくると、俺は水城先輩に言う。


「少し相談があるんです……異性の家に行く際に、何か気を付けたほうが良いこととかってありますか?」


 異性の家に行くのが初めてな俺は、念のために事前に水城先輩に何か気を付けたほうが良いことを聞いておこうと思い今こうして聞くと、水城先輩は驚いたような楽しそうな声音で言った。


「……え?何々?君、女の子の家行くの?」


 ……ここで変に誤魔化して話が長引くのも面倒だし、ここは素直に答えよう。


「はい」

「やっぱり!相手は七星ちゃんでしょ?」

「そんなことより、質問に答えてください」

「冷た〜い!でも、君には前助けてもらったからこのくらいは手助けしてあげないとね……その質問に答えてあげる前に、君には一つハッキリしてもらわないといけないことがあるんだけど、良いかな?」

「……なんですか?」


 俺がそう聞き返すと、水城先輩は俺の目を見ながら言った。


「君は────その女の子と、今後どうなっていきたいの?」

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