第42話 服選び

『人色さん!私の家で人色さんに料理を作るっていう話、今週の日曜日でも良いですか?もちろん、人色さんの予定が合わないなら合わせます!』

『日曜日で問題ない、その時はよろしく頼む』

『こちらこそ!よろしくお願いします!』


 そんなやり取りを昨晩にした俺が学校に登校すると、七星は俺のことを屋上に呼び出し、屋上に到着するとすぐに言った。


「真霧!今日の放課後私と二人で出かけない?」


 ────七星の言動が理解できないことは多々あるものの、今日は今日で突然すぎてかなり理解不能だった。

 今まで俺が七星と出かけたことがあるのは、真霧色人としては水泳大会という特殊なイベントの時のみで、普段から二人で出かけようなんて言い合うような関係では無かったはずだ。


「どうしてだ?」


 俺がそう聞くと、七星はどこか照れた様子で話し始めた。


「実は、昨日の夜、私の好きな人を家に呼ぶ日が今週の日曜日だって決定したの……だから、真霧には今日私と一緒に私がその日着る服を選んで欲しいなって思って」

「……事情はわかったが、どうして俺なんだ?俺はたいして服に詳しいわけじゃない、一つの例としてあげるなら七星のいつも一緒に居る女友達とかと一緒に行った方がいいはずだ」

「女の子の友達と服選んでも男の子が好きな服かどうかはわかんないじゃん!それに……真霧はきっと、あの人と似た感性を持ってると思うから、真霧に一緒に選んで欲しいの」


 俺の正体が霧真人色だとは気づいていない割に、とんでもない嗅覚だな。

 これがいわゆる女性特有の勘というものなのか、それとも単純に七星が真霧色人と霧真人色の共通点を、接している間に見出しているのか。


「断ると言ったらどうなるんだ?」

「教室に戻っても何回でも泣き叫びながら真霧にお願いする」

「喜んで受けさせてもらおう」

「ありがと!」


 あの七星一羽に泣き叫びながらお願い事をされるなんてことを教室という数十人にも及ぶ人間が行き交う場所でされるのは俺にとって笑い話にもならないため、ここは喜んで引き受けさせてもらう他無い。

 そして────放課後。

 俺と七星は、街のショッピングモール内にある服屋へやって来ていた。


「じゃあ、今から私が色んな服試着していくから、その中で真霧が良いなって思ったもの私に教えて?」

「わかった」


 俺がそう返事をすると、七星は楽しそうに一着ずつ服をカゴに入れていった。

 ……服はある程度気を遣う程度で、今の七星のように楽しく服を選ぶということはしたことが無いため、服選びを楽しんでいる七星のことを見ていると、なんだか新鮮な気持ちになった。

 俺がそんな感情を抱いていると、七星はいつの間にか五着ほどカゴに入れていた。


「うん、とりあえずこんな感じかな……あっちに試着室あるから、ついてきて」

「あぁ」


 俺は、七星に言われたとおりに七星についていく。

 五着か、それなら思っているよりも短い時間で済みそうだな。

 そんなことを思いながら試着室前へ到着すると、七星は一つの試着室の方を見ながら言った。


「見て見て、私前あそこの試着室の中で泣いたの」

「え……?」

「比喩じゃないよ?本当に涙流しちゃったんだよね、その時私の気になる人が露骨に私のこと避けててさ、あの時は過去に無いぐらい病んじゃってたと思う」


 そういえば、前にもその話を聞いたような気がするが、それがまさかこの服屋の今目の前にあるあの試着室の中でのことだったとは……なんだか少し気まずいな。


「いつかあの人とも一緒にショッピングとかしたいんだけど、真霧と一緒でそういうのあんまり興味無さそうな人だから、きっと誘っても来てくれないと思うんだよね」

「……七星、今から着替えるんだよな?」

「え?うん、そうだけど」

「悪いが、一瞬だけ外しても良いか?」

「良いけど、どうして?」

「……ちょっとな」


 そう言うと、俺は困惑した様子の七星を試着室に残し試着室前を去った。

 そして、トイレの鏡の前までやって来る。


「……」


 今から自分のしようとしていることがリスクが高く、論理的に考えればデメリットしか無い行為だとわかっている……だが、俺のせいで涙を流させてしまったのであれば、俺はその埋め合わせをしないといけない。

 そう考えながら、一応常に持参しているスタイリング剤を手に取ると────すぐに髪を上げたヘアセットをして、七星の居る服屋の試着室へ向かった。

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