第40話 準備

◇真霧side◇

 翌日の月曜日。

 この土日は休日という感じが全く無かったため、金曜日から休日が無しで学校に来ているような不思議な感覚に襲われながら学校に登校すると、七星が俺のことを屋上に誘ってきたため七星と一緒に屋上へ向かった。

 本当なら、真霧色人として、それもあまり学校内では七星と関わりたくはないが、教室で七星に話しかけられるよりは幾分もこちらの方がマシのため仕方が無い。

 なんて考えながら七星と一緒に歩いていると、屋上に到着し、早速七星が不安そうな表情で口を開いて言った。


「ねぇ、真霧……どうしよう」

「何がだ?」


 俺がそう聞くと、七星は慌てた様子で大きな声で言った。


「どうしよう!?」

「だから何がだ?」


 何をどうすれば良いのかと聞かれても、その肝心の何をの部分がわかっていないと何も答えようが無いため、心に余裕の無い様子の七星に二回そう聞くと、七星が口を開いて言った。


「あのね?私、昨日私の気になる人と出かけたっていうか、会う用事があったんだけど、その時に今度私の料理を食べてもらうっていう話になったの」


 当然、その相手というのは俺本人であるためその話はもうすでに知っていることではあったが、俺は真霧色人としてその話を始めて聞いたように相槌を打つ。


「そうなのか」


 それにしても、不安そうだったり慌てて居たりしていたから一体どんな話なのかと思えば、どうしようというのは料理を食べてもらうという話についてなのか。

 霧真人色の好きな料理がわからないとか、料理の腕が不安とか、そういう話だろうか……俺がそんな推測をしていると、七星が言った。


「それで、そこまでは良いんだけど……あ、あの……お、驚かないでね?」

「あぁ」

「私……私────い、家に誘っちゃったの!!」


 家……あぁ、そういえば、俺に料理を振る舞うために家に来て欲しいと言われたような気がするな。


「料理を作るってことなら、家に誘うのは別に普通のことじゃないのか?」

「は、はぁ!?」


 ごく自然なことを言ったつもりだったが、七星の琴線に触れてしまったようで、七星は俺との距離を縮めて来て言った。


「普通じゃないから!大体、仮にも男女っていう関係性なのにいきなり家に誘うとか普通じゃな────普通じゃ、ないんだよね……あぁ、私のバカ……」


 途中までは俺に説教をするような勢いで話していた七星だが、その途中で自らの頭を抱え始めた。

 そして、俺に聞いてくる。


「ねぇ、家に誘っちゃったものは仕方ないとして、男の子の意見として、女の子の家に行く時ってどんな心境になるの?」

「女子の家に行ったことがないからわからないな」

「想像でいいから!」

「想像……」


 実際、俺は今度七星の家に行くことになると思うが、その時のことを今少し想像してみても────


「多分普段通りだと思う」


 俺が想像した通りのことを伝えると、七星は怒った様子で言った。


「ちょっと!私真面目に聞いてるんだけど!」

「俺だって真面目に答えてる」

「もう~!」


 七星はそう大きな声を上げると、少し間を空けてから、頬を赤く染めて照れた様子で俺に聞いてきた。


「じゃあ、これが一番聞きたかったことなんだけど……一応、準備とかって、しておいた方が良いのかな?」


 どうして七星が頬を赤く染めているのかはわからなかったが、七星の心情を俺が理解できないことは多々あるため、そのことは特に気にしなくても良いだろう。

 それで、準備はしておいた方が良いのかということだが……


「当然、しておいた方が良いんじゃないか?」

「や、やっぱり!?」


 七星は、少し驚いた様子で言った。

 むしろ事前に準備もしないで料理に挑むという発想が俺には無かったため、その七星のリアクションに俺の方が驚きそうだったが、七星は続けて言う。


「私、本当にこういうの初めてで何もわからないんだけど……もしそういうことになった時って、な、何個ぐらい必要になるのかな?」


 何個……あぁ、確かに異性に料理を振る舞うとなれば、自らの食べる量と全く同じとは限らず、七星の場合は男子に料理を振る舞うという立場のため具材の量を増やした方が良いかもしれないと考えているのだろう……現に、予想だが俺はおそらく七星よりも食べる量が多いはずだ。

 だが、それほど気にする必要があることでも無いと思うため、俺はその自らの意見も伝えながらも七星の考えも汲み取って答えた。


「一つで十分だと思うが、念のために二つあった方が良いのかもしれないな」

「わ、わかった……私、一人で買いに行けるかわからないけど、もしそういう空気になったら二人で買いに行くのもアリ、だよね?」


 一人で買いに行けるかわからない……?

 ……よくわからないが、俺としても料理をするとなって一緒に具材を買いに行くのを拒むようなつもりは無いため、頷いて言う。


「あぁ、それでも良いと思う」

「だ、だよね!」


 七星は、どこか慌てた様子でそう返事をすると、少し緊張を解して言った。


「ご、ごめんね真霧、朝からこんな変な相談聞いてもらっちゃって」

「別に変だとは思ってないから気にしなくていい」

「本当にありがと!今真霧に話したおかげで、不安もさっきよりはかなり無くなったよ!」

「それは良かった」


 異性を始めて家に招くとなれば、緊張してしまうのも仕方ないだろう。


「じゃあ、そろそろ教室戻ろっか」

「そうしよう」


 今日の七星は様子が変だったが、時にはそんなこともあるだろう。

 その後、俺と七星は一緒に教室へ戻った。

 ────後日、俺は自らの思考の幅の狭さを盛大に恨むこととなった。

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