第39話 自室
俺が様々なことを考えている間に打ち上げが開始すると────
「お疲れ様でした〜!」
と、通常のカップや少し大きなカップ、人によってはワイングラスのようなものを持って、近くに居る人と乾杯の音を鳴らすとそれらの容器に入っているものに口を付けた。
色や香りからして大半の人がお酒みたいだ……生憎、俺はまだお酒を飲める年齢では無いため、色や香りからお酒の種類を断定することなどはできない。
それらのものを口に付けた人たちは、皆美味しそうな声を上げると、それぞれ料理をお皿に乗せて話し始めた。
俺も、七星と一緒に料理をお皿に乗せながら七星と話す。
「この場だけ見るとパーティーって感じだが、この雰囲気はどちらかと言うと打ち上げって感じだな」
「うん、今回は色んな企業から私が起用されて、それがかなり重なっちゃったからかなり忙しい時期だったんだよね……で、それがようやく全部終わったから、皆で打ち上げって感じ!」
そうか……俺が見学に行ったモデル撮影の場に居たのは十人、多くとも二十人を超えない程度だったが、もしかしたら他の撮影の時には他のスタッフ、そうでなくても企業との商談を行った人や、企画を立てた人……それ以外にも色々な人が居ると考えると、五十人以上が集まるのは確かに自然なことなのかもしれない。
「益々俺が場違いな気がしてきたな、本当に俺が居ても良いのか?」
「良いに決まってるじゃん!人色は私の彼氏として堂々としてくれてたら良いから!」
「……わかった」
どのみち、ここまで来て打ち上げに参加せずに帰るというのは、それはそれでマナー的に良く無いだろうし、七星の彼氏だと認知されてしまった以上七星の彼氏として振る舞い続ける他無い。
そんなことを話しながら俺たちが料理をお皿に乗せ終えると、そのタイミングであのモデル撮影の場に居たスタッフが数人で話しかけてきた。
「あの〜!お二人は、どこで知り合ったんですか〜?」
……普段からこんな感じの人なのかどうかはわからないが、心なしかもうすでに少し酔っているような気がする。
俺がいくらなんでも酔いが回るのが早いなと感じていると、七星が言った。
「恥ずかしいので秘密です!」
「そうですか〜、まさか、あの七星さんに彼氏が居たなんて……」
「うっ……」
「まぁ、あの七星さんに居ないわけないか……」
なんて悲しそうに呟くと、スタッフたちは俺たちの元を去って行った。
「……あれはなんなんだ?」
「わ、わからないけど、なんか悪いことしたいな気持ちになっちゃうね」
「……とりあえず、料理を食べてみるか」
「うん!」
そして、俺たちは同時にその料理を食べる。
「美味しいな」
「美味しい!なんか高級感があるよね!」
「あぁ、素材と油がとても良質で、おそらくは前日仕込みも行っていて、さらに料理人の腕も良いんだろうな」
「ね〜!そうだ、私も意外と料理作れたりするんだよ?」
「……そうか」
「あ〜!今疑った!絶対疑った!」
少し間を空けてしまったことや、おそらく俺が無意識に七星に疑いの目を向けてしまったことからそのことがバレてしまったのか、七星はそう言うと俺の顔を覗き込むようにしてきながら言った。
「言っておくけど、嘘じゃないからね!嘘だと思うなら、今度私の家に来てよ!人色に料理作ってあげるから!」
「そこまで言うなら今度食べさせてもらおう」
「えっ……本当に!?食べてくれるの!?」
先ほどまでムキになっていた様子の七星は、突然嬉しそうな声音を上げた。
俺は、感情の波が激しいなと思いながら返事をする。
「あぁ」
俺がそう言うと、七星は「やった〜!」と言いながら嬉しそうに笑った。
その後、俺たちは真面目な大人たちや、酔った大人たちから何度か話しかけられながらも打ち上げの場を過ごすと、二人で一緒に帰路へ着いた。
◇七星side◇
「人色さん、今日は本当にありがとうございました!また海とか、あと私の料理もちゃんと食べてくださいね!」
「……あぁ、楽しみにしてる」
二人の帰路の分かれ道までやって来ると、その会話の後七星が霧真に手を振り本日は解散となった。
それから家に帰るまでの間、七星はもはや口角を上げるのを抑えきれないほどに上機嫌だった。
「人色さんと海、人色さんに私の料理を食べてもらう……予定表が幸せ〜」
そんなことを呟きながら家に帰り、七星は家に帰ると自分の部屋に入った。
そして、着替えを済ませるとベッドの上で足を小さくバタつかせながらスマホを開き、霧真とのメッセージ画面を開いた。
霧真に今日のお礼を送るためだ。
『人色さん!今日もありがとうございました!また海とか、私の家で料理と』
そこまで打って、七星は一度霧真に送るメッセージを打つ手を止め、我に帰った。
「私、もしかして……わ、私の家で、とか言ってた?」
七星は、本日の自らの記憶を振り返り、霧真へ放った言葉を思い出す。
「────嘘だと思うなら、今度私の家に来てよ!人色に料理作ってあげるから!」
その言葉を思い出した七星は、少し硬直した後頬を赤く染め────枕を抱きしめると、足を大きくバタつかせながら言った。
「ど、どうしよう!え!?と、人色さんが私の家に来るってこと!?ていうか、人色さんはそれをオッケーしてくれたの!?なんで!?どういう意図で!?そ、そうだ、掃除!は普段からしてるから良いけど、何か準備とかした方が良いのかな!?ていうか!一応もうある程度はできるけど、できるだけ人色さんに料理を美味しいって思ってもらえるためにも料理の練習とか────」
その後、七星はしばらくの間一人自室のベッドの上で枕を抱きしめ、大きく足をバタつかせたりベッドの上を転がったりしながらそんなことを呟き続けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます