第37話 同業者
七星は続けて考える。
────ど、どうしよう……!プロデューサーの話もちゃんと聞かないといけないけど、いざ聞くってなっても絶対人色さんのことで頭いっぱいになって話し入ってこない!
プロデューサーの話を聞かないといけないと分かっていながらも、七星は頭の中で霧真が女性に言い寄られているということが頭から抜けず、七星はプロデューサーに言った。
「すみません!一瞬だけ人色のところ戻っても良いですか?」
「良いですよ、もしかして少し離れて寂しくなってしまいましたか?」
「あはは、そ、そんな感じです!」
「彼氏さんを大事にするのは重要なことですけど、仕事の方も忘れないでくださいね」
「はい!本当にすみません、すぐ戻ります!」
そう言うと、七星はすぐに真霧の方へ足を進めた。
◇真霧side◇
俺が七星の友達なのかどうかと聞いてきた女性は、少し体を露出させた服を着ているだけあって体が整っていて、顔も整っていることからおそらく七星の同業者なのだろうか。
……この問いかけには、果たしてどう答えたものか。
今の俺は七星の恋人だが、今日が終わればその関係も終わりだ。
そんな関係の状態で堂々と恋人と答えるのは少し気が引ける……とは言っても、ただの友達ということになれば、そもそも俺がこの場に居るのはおかしいということになるし、以前プロデューサーたちに伝えたことと矛盾することになってしまう。
「……」
それに、この女性と七星の関係性もわからない……もし、この女性に七星の彼氏だと伝えることで七星の仕事に弊害が出るのだとしたら……この場に俺のことを恋人として連れてきている以上そんな可能性は低いだろうし、プロデューサーたちが言いふらすようなことはしないまでも、他の人に俺と七星の関係性を言うこともあるだろうから、今俺がここでどう選択してもあまり今後には関係が無いように思えるが、ひとまずこの問いに対しては俺の独断で答えるわけにも七星が戻ってくるまでどうとも答えることはできないな。
「そんな感じです」
俺が曖昧な返答をすると、体を露出させた服を着た女性は言った。
「ふ~ん?でも、その顔で一羽ちゃんと一緒に来たってことは、君もモデルとか俳優さんとかそっち系?」
なるほど……俺は先ほどの問いに熟考してしまったが、この人としては本当に軽い感じで聞いてきていただけのようで、その証拠に話題がもう次に変わっている。
一つ一つの受け答えに対して吟味して返答しないといけない今の俺にとっては、かなり厄介な感じの人だ。
だが、これに対してはすぐに返答することができる。
「違います、俺はただの高校生です」
「え~!そうなんだぁ、将来有望────」
「あの!!」
体を露出させた服を着た女性が何かを言いかけると、その背後から大きな声が聞こえてきた……かと思えば、その声の主────七星は、俺と体を露出させた服を着ている女性の間に割って入ると、その女性に対して言った。
「人色にちょっかいかけないでください!!」
「あれ、一羽ちゃん?さっき行ったばっかりなのに、もう戻って来たの?」
大きな声でそう言われた体を露出させた服を着ている女性は、驚いた様子で言った。
「人色が誰かに言い寄られてるって思って一瞬だけ抜けてきました!」
「あぁ、なるほどね……ちょっかいってことは、もしかしてこの男の子は一羽ちゃんの彼氏なの?」
「そうです!」
そう言い切った七星のことを見て、体を露出させた服を着た女性は明るい声音で言った。
「一羽ちゃんの彼氏だったんだぁ、ごめんね?かっこいい子見るとついつい口説きたくなっちゃってさ」
「人色がかっこいいのはその通りですけど、いい加減その癖やめてください!!」
「一羽ちゃんの彼氏ってわかったら手なんて出さないから、安心していいよ」
そう言ってこの場を立ち去ろうとした体を露出させた服を着た女性は、七星に何かを耳打ちした。
「私には全然だったけど、一羽ちゃんの彼氏くん、結構落ち着いて大人びてる感じだから、一羽ちゃんが大人っぽくちょっと体露出させてあげたりしたら喜んでくれるかもよ?」
「っ……!と、人色はそんなのじゃないですから!!」
俺には聞こえない声で何かを耳打ちされた七星が頬を赤く染めてそう大きな声を上げると、体を露出させた服を着た女性は小さく笑いながら俺たちの前から去って行った。
「もう……」
どこか照れているような怒っているような様子の七星に、俺は話しかける。
「あの人は、一羽の知り合いなのか?」
俺がそう聞くと、七星はすぐに答えた。
「うん、同じ事務所のモデルの先輩、後ろから見た時は誰かわからなかったけど、人色に言い寄ってたのがあの人だってわかったとき驚いちゃったよ……あの人は、あんな感じですぐ男の人口説こうとする人なの」
やはり、七星の同業者だったらしい。
普通に生きていてモデルの人と関わる機会は無いため、俺は七星以外に初めてモデルを見たが、今の七星の話を聞いて考えてみると、当然ではあるがモデルの人の中でもその人によって様々な特色があるんだろう。
「なるほど」
「本当、困った人だよね……まぁ、人色はあの人に口説き落とされたりなんてしないってわかってたけど」
そんなやり取りをした後、ひとまずこの件は一件落着ということで、七星は俺から少し距離を取ると俺に対して手を振りながら口を開いて言った。
「人色、また後で────」
そして、何かをその続きを言いかけた時────ものすごい足音が聞こえてきたかと思えば、俺と七星のことを囲むように十人を超える大人たちが押しかけて来て言った。
「君!七星さんの彼氏なのかい!?」
「良かったら今度、試しにスタジオに来てみないか?」
「是非うちの雑誌に出て欲しい」
「ドラマ撮影を見学だけでもしに来ませんか?」
「インタビューさせてくれないかな!?」
なんだこの勢いは……というか、このままだと完全に道が塞がれて全く動けなくなってしまう……仕方ない。
俺は、七星の手首を掴んで言った。
「一羽、一度ここから離れよう」
「っ……!う、うん!」
その後、俺は今までのスポーツ経験で培って来た能力を活かし潜り抜けるようにあの囲いから脱出すると、ひとまずこの打ち上げ会場建物内の静かになれそうな場所を探して七星と一緒に走った。
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