第28話 水泳大会

 七星との待ち合わせ場所に到着すると、もはやいつも通り七星は一目を集めていた。

 七星は、黒のTシャツに白のズボン、そして白の帽子を被っている。

 シンプルな服装だが、それを着こなせてしまうのが七星一羽という存在なんだろう。

 そんなことを考えながら、俺が七星のところまで歩くと、俺は七星に声をかけた。


「七星」

「わっ!?」


 俺が声を掛けると、七星は驚いたように声を上げた。

 そして、勢いよく俺の方に振り返る。


「な、なんだ真霧かぁ、ビックリしたぁ」


 顔を見られて早々失礼な扱いを受けたような気がするが、俺は七星がどうしてそんなにも驚いたのかを聞く。


「どうしてそんなに驚いたんだ?」

「う、ううん、なんか一瞬、真霧の声が……し、知り合いに似てたような気がしただけ」


 知り合い……そんなことであそこまで驚くことかとも思うが、俺にとっては特に気にしなくても良いことだろう。


「そうか、それより早く水泳大会の会場に行こう」

「うん!」


 俺と七星は電車に乗ってその大会の行われる最寄駅で降りると、俺と七星はその会場に向かいながら話し合う。


「そういえば、私明日気になる人と大人数でご飯食べに行くことになってるんだけど、ちょっと相談してもいい?」

「なんだ?」


 俺がそう聞くと、七星が言った。


「大人数でご飯食べた後、二人だけで出かけたいって言ったら引かれちゃうかな?」


 当然、俺はそんなことを言わないで欲しい……が、そう伝えても逆効果になりそうだというのは今までの経験からわかっていたため、俺は曖昧な返答をすることにした。


「それは、相手との親密度度合いによるんじゃないか?」


 俺がそう言うと、七星が大きな声で言う。


「そうなんだけど〜!あの人が私のことどう思ってくれてるのか、全然わからないの!何か確かめる方法とか無いかな〜!」

「素直に聞いてみたらどうだ?」


 素直に聞いてきてくれれば、俺としても思っていることをそのまま伝えやすい……と思ったが。


「む、無理無理!もしそれで私のこと嫌いとか言われちゃったら私寝込んで立ち直れない!!」


 どうやら、七星にとっては俺が思っている以上に大きな問題らしい。


「それは困ったな」

「そうなんだよね〜!はぁ、今日この水泳大会にあの人も来てたりしないかな〜、そうしたら自然にこの大会の間だけでも一緒に話したりできるのに〜」


 俺はその水泳大会を観る予定だが、残念なことに霧真色人としてでは無いため、七星のその願いが叶うことはない。

 俺たちがそんな会話をしていると────


「あれが水泳大会の会場か」

「大きい〜!」


 今日、俺たちが観に行く水泳大会が行われる会場が見え、俺たちはそのままその会場の中に入ると、スタッフの人にチケットを渡し水泳大会の行われる会場の観客席へ座った。


「い、いっぱい人居るね」

「そうだな」


 そろそろ夏と呼ばれる季節になる、もしくは人によってはもう夏と呼べる季節だからか、観客席はほとんど満席だ。

 俺と七星がそのことに驚いていると、水泳大会の始まりを告げる司会の挨拶が始まり────その数分後、いよいよ第一試合が始まるようだった。

 ルールは単純、男女の入り混じった高校生たちによる競泳で、平泳ぎ、背泳ぎ、バタフライ、自由形の順に合計四種目でタイムを競い総合順位の高かったチームの優勝だ。

 そして、どうやら前日までに予選というものは終わっているようで、今日まで残った八つの高校の中から優勝する高校が決まるらしい。

 それぞれの高校の選手がプールに入っていく。


「あ!あの人居るね!」

「あぁ」


 当然、その中には水色髪の女性も居て、真ん中のコースだから俺たちとしては見えやすい位置だった。

 その後、笛の音が鳴ると、選手たちは一斉に泳ぎ始める。


「え、え!?あ、あの人速っ!?」


 皆が同時に平泳ぎを始めた────が、やはりあの水色髪の女性だけ群を抜いて速く、七星もその速さに驚いているようだ。


「……」


 俺は、そんな泳ぎを見ながらある考えに至り、水色髪の女性が圧倒的な一位を獲ったことを確認すると観客席を立つ。


「え、真霧?」

「悪い、手洗いだ」


 突然席を立った俺に困惑した七星に対しそう言った俺は、席を立ってトイレ────ではなく、選手控え室と書かれてある看板に沿って選手控え室のあるゾーンに向かった。

 すると、そこに居る警備員から話しかけられる。


「ん?君、この先は選手かその関係者以外立ち入り禁止だ」


 そう言われた俺は、持参していた生徒賞を見せながら言う。


「特待別世高校一年の真霧色人です、本大会に出場している先輩からある物を届けるよう言われて来ました」


 顔写真付きの生徒証、身分を証明するには十分だろう。

 警備員は、頷いてから言った。


「わかった、ただし、次の種目まで長い時間があるわけじゃ無いから長居はしないように、あと当然だが他の選手に迷惑をかけないように」

「はい」


 それだけ聞き届けると、俺は『特待別世高校二年 水城みずしろあおい様』と書かれた個室の前までやって来た。

 見渡してみた感じ、他に特待別世高校の個室は無かったため、この水城葵というのはおそらくあの水色髪の女性の名前だろう。

 俺はここで初めてあの人の名前を知ったが、特にそのことは気にせずにその個室のドアをノックした。


「は〜い」


 すると、中からあの水色髪の女性のそんな声が聞こえてきて、ドアが開かれるとそこにはスクール水着を着て、泳いだ直後で全身の濡れている水色髪の女性が出てきた。


「今休憩時間で────え?」


 俺のことを見た水色髪の女性は驚いた様子だったが、すぐに普段通りの調子で言う。


「何々〜?もしかして、お姉さんが一試合目で一位獲れたこと祝いに来てくれたの?」

「……」


 俺は、一度その個室の中に入ってドアを閉めると、この水色髪の女性に近づく。


「え……?何?もしかして、今頃になって水着姿のお姉さんの魅力に気づいちゃったの?」


 俺はそんな言葉を無視して────水色髪の女性に近づいてしゃがみ込むと、その水色髪の女性の両足首を軽く握った。

 すると、この水色髪の女性の左足の膝が少し崩れかけた。


「っ……!」

「こっちですね」


 七星が速いと言っていたことや、事実圧倒的な差をつけて一位を獲ったことからも、この水色髪の女性の泳ぎが速いことは間違いない。

 実際、俺ももし前に一度この人の泳ぎを見ていなかったからこんなことに気づけなかっただろう────だが。


「さっきの泳ぎ、前よりも泳ぎに無駄がありました、具体的に言えば何かを庇ってるような泳ぎ方です」


 そう前置きをした後、俺は早速本題に入った。


「あれから、泳ぎの練習途中で左足首を負傷したんですか?」

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