第27話 気楽
「────もう大丈夫そうですか?」
俺が自販機で買ってきた水を水色髪の女性が飲んで、少し間を空けてからそう聞くと、水色髪の女性が明るい表情で言った。
「もう大丈夫!お姉さんのこと心配してくれてありがとね」
「いえ……じゃあ、俺はもう泳ぎ見たので帰りますね」
「うん!土曜日はちゃんと私のこと応援してね〜!」
「そうします」
そんな会話を最後に、俺は屋内プールから立ち去って家へ帰ることにした。
「や、やだなぁ、素敵って言われたのは私の泳ぎのことだし、普段素敵って言わなそうな子が素敵って言ったギャップで落ちるなんて、お姉さんそんなに甘くないからね!お姉さんは、そんなに甘く……ないんだから────」
翌日の朝。
俺は、七星に屋上へ呼びされて話しかけられていた。
「ねぇ、真霧って今週の土曜日あの人の水泳大会観に行くことにしたんだよね?」
「あぁ、観に行く」
積極的に観に行きたいと思っているわけじゃないが、俺があの人の水着を見るのが恥ずかしいから観に行かないと思われるのは癪に障るからな。
俺がそう返事をすると、七星は言った。
「特高の公式サイトでその水泳大会のチケット割引で売ってたから、私も真霧と一緒に観に行こっかな」
「どうして俺と一緒に来るんだ?七星には他に友達がたくさん居るはずだ」
「水泳大会に友達誘うのは急すぎるじゃん、言ったら一緒に来てくれそうだけど、せっかくだったら私が水泳大会観に行こうかなって思ってるきっかけをくれた真霧と一緒に観に行きたいなって思って」
そんなきっかけを与えた覚えは一切ないが、とりあえず俺は今思っていることをそのまま伝えることにした。
「七星が水泳大会を観に行くのは勝手だが、俺とは別々で行ってくれ、前にも言った通り俺は目立ちたくないんだ、七星と一緒に居たら嫌でも目立つ」
「水泳大会の会場だったらみんなプールしか見てないから平気だって!それに、スポーツ観戦とかしたことないから、一人だとなんか不安だし……」
確かに、水泳大会の観戦中、観客たちはプールに意識がいっているだろうし、初めてのスポーツ観戦に一人、それも高校一年生の女子だけで行くとなると不安なこともあるだろう。
あるだろうが……真霧色人としてまで休日に七星と会わないといけないのは心底ごめんだ。
そのため、俺はそれを踏まえた上での大前提を七星に伝えることにした。
「それが不安なら、大会を観に行かなければいい」
「もうチケット買っちゃったからそれは無し!それに、大会を観に行きたい理由は他にもあるんだよね」
「それは?」
俺がそう聞くと、七星は頬を赤く染めながら言った。
「……ほら、前に言ってた私の気になる人って、運動神経良い人だから、一回ぐらいはスポーツ観戦とかしてた方がその人とそういう話になった時も楽しく話せるかな〜って」
今までの話の流れから、その七星の気になる人というのは霧真人色のことなんだろうが、俺は七星とそんな話をするつもりが無いから安心して欲しい────とは、当然今真霧色人として伝えることはできず、ここで七星のその考えを否定するのは不自然なため、俺が何も言えずにいると、七星が言った。
「だから、お願い!私の隣に居てくれるだけで良いの!いいでしょ?」
「……隣に居るだけで良いんだな?」
「うん!」
「……わかった、それなら一緒に行ってもいい」
「やった〜!ありがとう〜!」
俺の言葉を聞いた七星は、嬉しそうにそう声を上げた。
そして、俺と七星は待ち合わせ場所を決めて、一緒に水泳大会を観に行くことにした。
────そして、土曜日……水泳大会当日がやって来た。
今日、水泳大会を見終えたらあの水色髪の女性とはもうこれ以上関わらないようにして、明日の打ち上げが終わったら七星の恋人役も終わらせる。
明日の七星のモデル撮影打ち上げは色々と大変かもしれないが、今日はただスポーツ観戦をするだけだけだから気楽だ。
俺は、そんなことを思いながら七星との待ち合わせ場所へと向かった。
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