第26話 水着姿

 どうして突然スクール水着着て出て来たのか、俺が全く状況がわからないで居ると、目の前のスクール水着を着た水色髪の女性は両手を広げて言った。


「どう?お姉さんの水着姿」


 普段着ている制服からではあまり見えなかったことも、スクール水着だと分かりやすくボディラインとして出るな。

 目の前の女性のことを冷静に分析した場合、女性として一般的に魅力的な体つきをしていることは間違い無い。

 胸はおそらく手のひらだけでは収まらない程に大きく、普段から運動をしているからなのかしっかりとくびれが出来ていて、足も余分な脂肪が無く長い。

 そして、それらのことを踏まえた上で。


「どう、と言われても、別に何とも思いません」

「え……?」


 別にこの人の体がどれだけ魅力的であろうと俺には関係の無い話。

 自分にとってその体がどれだけ魅力的であるかどうかが関係の無い人物の体がどれだけ魅力的であろうと、それに対して何か思うことは生まれない。

 俺は当然のことを言ったつもりだったが、目の前の女性は驚いた様子で言う。


「う、嘘でしょ?水着姿だよ?しかも、こんなに間近で私のスクール水着姿見れた男の子は君が初めてだよ?」

「そうなんですか?」

「うん、大会とかだと同じ水泳選手とすれ違いざまに……とかはあると思うけど、その時はその子も大会に集中してるだろうし、観客の人だってこんなに間近で私のスクール水着姿見れないからね」

「そうですか」

「そうですかって……お姉さんの水着姿見て何も思わないなんて、お姉さん色々と心配になって来ちゃったよ、君色々と大丈夫?」

「大丈夫です」


 何を心配されているのかわからないが、特に体に問題は無いため俺はそう答えておいた。

 そして、俺は続けて言う。


「そんなことより、俺にとって良い話っていうのはなんなんですか?」

「えっと……まさかここまで冷めた反応されると思ってなかったから言いづらいんだけど……ほら、今週の土曜日にある水泳大会で初めて私の水着姿を見るってなったら刺激が強すぎて君のことが心配だったから、事前にお姉さんのスクール水着姿を見せてあげることで耐性を付けてあげようと思ったの」

「はぁ、でもそれと良い話にどんな関係があるんですか?」

「え?だから────」


 目の前の水色髪の女性は、少し前屈みの体勢になると、スクール水着の胸元の部分を少し前に引っ張って俺に胸の谷間を見せながら言ってきた。


「お姉さんの水着姿見られるよってこと、良い話でしょ?」

「……」


 俺はその答えに、ここ最近色々とあったがもしかしたら一番急激に気分が沈み込んで言った。


「用事を思い出したので早急に帰らせていただきます」


 そう言ってから俺が水色髪の女性に背を向けたところで────水色髪の女性は俺の手首を握って言った。


「ま、待って待って!別にただ私の水着姿を見せたかったってわけじゃないの!ていうか、本題は私の泳いでるところを見て欲しいなって思ったの!」


 ようやく真面目な話が出たところで、俺は一度足を止めて聞く。


「どうして俺に見て欲しいんですか?俺は水泳にそこまで詳しくありませんよ」

「……なんとなく、じゃ見てくれない?」

「……」


 なんとなく、か……だが、少なくとも先ほどまでのふざけた話に比べれば大会に出るから泳いでいるところを見て欲しいというのは好感が持てる。

 俺はそこまで忙しいわけでも無いから、少し見るぐらいだったら良いだろう。


「わかりました、見ます」

「っ……!ありがと!」


 そう言うと、水色髪の女性は俺の手首から手を離してプールの方へ向かった。

 ……この特待別世高校に選ばれた水泳選手の泳ぎ、か。

 ただで見せてもらえる俺は、もしかしたらとても恵まれているのかもしれないな。

 そんなことを思いながらも、俺は泳ぎ始めた水色髪の女性のことを見て呟く。


「────流石に速いな」


 間違いなく高校生のレベルじゃない……プロのレベルだ。

 毎日水泳に関することで努力しているのが見て取れる、それほどに無駄の無い専念された動き。

 水色髪の女性は、あっという間にクイックターンして50メートルを泳ぎ、俺のところに戻って来て言った。


「どう?言っておくけど、さっきの水着と同じで何とも思わないなんて言ったら流石のお姉さんでも怒っちゃうからね!」

「まさか、素敵でしたよ」

「────えっ?」


 水着に関しては本当に何とも思わなかったが、さっきの泳ぎは素直に賞賛に値する泳ぎだったため俺がそう言うと、水色髪の女性は少し目を見開いて頬を赤く染めた。

 そして、少し間を空けてから言う。


「えっと……す、素敵って、お姉さんの泳ぎがってことだよね?」

「そうです」

「そ、そうだよね〜」


 そう言う水色髪の女性の顔は、先ほどよりも赤くなっていた。

 屋内プールのため、温度による暑さで顔が赤くなっているとは考えづらい。

 となると……


「顔赤いですよ、もしかしたら熱があるかもしれません」

「え、え!?だ、大丈夫だと思うよ?」

「でも、激しい運動の後は水分補給しないと危ないので、一応水持って来ます、ここで待っててください」

「う……うん!」


 大会前に倒れられでもしたら、後味が悪いからな。

 俺は、すぐに屋内プール近くにある自販機で水を購入してくることにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る