第15話 笑顔

 七星との待ち合わせ場所に到着すると────そこには、一目を集めている存在が居た。

 先週見た光景だなと思いながらも、俺はその一目を集めている存在に目を向ける。

 白のニット生地のオフショルダーに、白のミニスカート……そして、首元には黒のチョーカー、足には黒の長ブーツを履いている。

 前回のラフなスタイルとは違い、今回はいかにもモデルといった感じだ。

 だが、そんな七星のコーディネートのレパートリーを見るのも今日で最後、今後俺が新しい七星のコーデを知ることはない。

 ということで、俺は一目を集めている七星に近づくと声をかける。


「七星」


 俺がそう声をかけると、七星は嬉しそうな表情で俺のことを見て言った。


「人色さん!また会えましたね!」

「あぁ」


 だが、それもすぐに終わることだ。

 俺は、約束通り持ってきたカードキーをポケットから取り出すと、それを七星の方に差し出す。


「預かっていたものを返す」


 これで、七星がこのカードキーを受け取ってくれれば、あとはすぐにこの場を去ればいい。

 だが、七星と初めて会った夜に、連絡先を交換しなければついてくると言っていたことからも、後をつけてくる可能性があるため七星のことを撒くことも考えないといけな────と考えていた俺だったが、七星は両手を自らの背中に回して言った。


「まだ受け取りません!」


 ……え?


「どういうことだ?前話していた限りでは、次に会うときに返すって話だったし、何より今日はもう土曜日だ」


 七星のモデル撮影があるのは日曜日……今日七星が俺からカードキーを受け取らなければ、七星は明日の撮影に参加することができない。

 スタジオや撮影スタッフ、撮影機材などがいくらあっても、当のモデルが居ないとなるとその場は一大事となる。

 そして、もし今日が火曜日や水曜日だったなら、七星は土曜日まで俺からカードキーを受け取らないかもしれないという可能性を考慮して、俺はモデル撮影の前日である今日、土曜日を霧真人色として七星と会う日に指定した。

 俺がそれらの考えの元七星にそう言うと、七星は笑顔で言った。


「はい!でも、今受け取っちゃったら人色さんそのまま帰っちゃいそうなので、今日一日人色さんと一緒に楽しんだら受け取ります!」


 そう来たか……なら、この後で俺の方に予定があるからそれは難しいと言ってみるか。

 だが、七星は自らの信頼に傷が付くことも覚悟して今回こんなことをして来ているため、仮にそんな嘘を吐いたとしても自分に傷が付くだけだと言われるだけで意味を成さない。


「……わかった、だが俺はカードキーを渡すだけの予定だったから、どこも予約なんてしてない」

「任せてください!私、バッチリ予約しておきましたから!」


 そんなにキラキラした目で言われても何も嬉しくない。

 だが、ここで太陽の下照らされ続けているわけにもいかないため、俺と七星は一緒に七星の予約したという店に入った。

 そして、メニュー表を開くと俺はそこにあるメニューの一つを見ながら言う。


「俺はこの薄切りローストビーフにする」

「えぇ、明日撮影あるので薄切りとは言ってもあんまりお肉系は入れたく無いかもです」

「どうしてメニューを一緒にする前提なんだ、嫌なら別のメニューにすれば良い」

「人色さんがどうしてもそれが食べたいって言うんだったら止めないですけど、もしどうしてもじゃ無いなら私はどうしても人色さんと一緒のメニューが良いのでお肉じゃ無いやつにして欲しいです!」


 一応強制するわけではないところに配慮は感じるが────


「……」


 そんな訴えかけられるような目で見られて俺がメニューを変更しなかったら、まるで俺が悪いことをしたような気持ちになりそうだ。


「……なら、こっちのサラダがメインのやつにしよう」

「人色さん……!ありがとうございます!人色さんと一緒のにします!」


 そう言って、七星はとても明るい笑顔を見せた。

 ……七星一羽という人物は、本当に笑顔が魅力的だ。

 こんなにも明るい笑顔をする人物のことを欺いている俺は、善と悪が存在するのであれば悪の存在なのだろう。

 だが、俺にも譲れないものがある。

 俺のためにも、そしてこの七星の笑顔のためにも、今日で七星と関わるのは最後だ。


「……」


 この笑顔が見られなくなるのは少し惜しい気もしたが、それも仕方の無いこと。

 その後、俺と七星は軽く雑談を交えながら一緒にご飯を食べた。

 七星と普通に話をしている分には、それは楽しい時間と言える。

 だが、そんな時間はもう間もなく終わりを迎える────この、霧真人色という存在と共に。



 この作品の連載が始まってから、二週間が経過しました!

 この二週間の間で、たくさんの方がこの物語を読んで楽しんでくださっているということをいいねや☆、コメントや感想レビューから伝わって来てとても嬉しく思います!

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 今後もよろしくお願いします!

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