第10話 本人
────休日明け。
俺が真霧色人としていつもより少し遅めに学校に登校すると、何故か俺の席の前に七星が立っていた。
「……なんだ?」
教室を見渡したところ、いつも七星が話している女子メンバーは居るみたいだから、前みたいに他の人が登校していないからという理由で俺が七星の話し相手になる必要はないはず……というか、そうならないために今日はわざわざいつもより少し遅めに学校に登校してきたのだから、そうでないと困る。
なんて思いながらも、このまま棒立ちしているわけにもいかないため、俺は自分の席へ向かう。
そして、自分の席に座ろうとしたところで────
「遅い!私話したいことあったのにどうして今日に限ってこんなに遅いの!?」
と、七星からとても理不尽なことを言われた。
そんな理不尽な言葉に思わず溜息が出そうになってしまったが、溜息なんて出したら間違いなく怒られてしまうため、俺はその溜息を心の中だけに留めて席に座ると言った。
「今日の朝に話す約束なんてしてなかったんだから仕方ないだろ?それに、話したいことがあったなら俺にじゃなくてもう登校してる七星の友達に話せばいい」
俺が当然のことを言うと、七星が少し怒ったように言った。
「今日は女の子じゃなくて、男の子の意見が聞きたい話なの!前一回話し相手になってくれた仲なんだからそのぐらいいいでしょ!?」
前一回話し相手になっただけの仲なんだが……でも、この勢いだと話を聞くまでここから退いてくれないどころか、次の休み時間になっても話に来そうなため、今のうちに話を聞いておくことにしよう。
「わかった聞こう、どんな話なんだ?」
俺がそう聞くと、七星はわかりやすく顔色を明るくして言った。
「私、土曜日恩のある気になる人と二人でご飯食べに行ったんだけど」
七星に恩を売ったつもりはないが、俺は七星と二人で土曜日にご飯を食べに行っていて、七星からすれば恩と受け取れることはしたため、この恩のある気になる人というのは俺、正確には霧真人色のことで間違いないだろう。
「なんか、その人の対応が冷たいっていうか……元々落ち着いた感じの人だけど、多分私避けられようとしてるの」
「そうか」
「うん……で、今週なんとか、その人が優しいのはある一件で知ってたから、ちょっと酷いかもしれないけどその優しさを利用して今週はその人と会う機会ができると思う……けど、どうして私が避けられるのか全く心当たりが無いから、その先どうすれば良いのかなって感じ」
「なるほど」
……俺は優しいわけでは無いが、確かにあんなカードキーの預け方をされてしまえば今週七星と会わないわけにはいかない。
「本当、どうしたら良いんだろ……今も現在進行形でクラスの男子が私のことチラチラ見てるみたいに、今まで男の子に見られたり距離を縮めようとされたことはあったけど、避けられたりするのは初めてだからどうしたら良いのかわかんない」
まさにクラスの人気者で美少女モデルといった感じの発言だが、七星は幸運だ……何せ、相談相手である俺が七星のいうその人本人なのだから。
つまり、俺が七星にして欲しいことを言うだけで良い。
ということで、俺は七星に言った。
「そうだな、その人のためを思うなら、とりあえずもうその人に関わらないようにしたらどうだ?話を聞く限りだと、その人もそれを望んで────」
「どうしてその人がそれを望んでるかが重要なの、それを解決できたら問題が無くなるんだから……はぁ」
七星は、呆れたような様子で一度俺の前の席に座る。
……どうやら、ただ俺のして欲しいことを言うだけではいけなかったらしい。
俺がそんなことを思っていると、七星は俺の顔を見ながら言う。
「ていうか、真霧って髪の毛長いよね、目隠れちゃってるじゃん」
そして────七星は、俺の前髪に手を伸ばしてきた。
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