第8話 別れ際
写真を撮り終わった後、俺と七星が一緒に駅に向かって歩いていると、七星が言った。
「人色さん!さっきは一緒に写真撮ってくれて、本当にありがとうございました!」
「気にしなくていい、それよりも写真に全くブレがなかったことに驚いた、やっぱりモデルの名は伊達じゃ無いんだな」
俺がそう伝えると、七星は慌てた様子で両手を振って言った。
「さ、さっきのはたまたまですよ!それに、私カメラの方は良かったですけど、さっきの写真なんか変に口角上がっちゃってたりちょっとだけ頬赤くなっちゃってたり、モデルとしては写真を撮ることよりも被写体の方が上手じゃ無いといけないのに、そこが逆になっちゃってて……」
「そうか?少なくとも俺から見たら綺麗な笑顔だったと思うが」
「っ……!」
俺がさっきの写真を見て率直に抱いた感想を伝えると、七星は驚いたような反応を見せて、俺から顔を逸らして言った。
「あ、ありがとう……ございます」
「思ったことを言っただけだ」
「……」
その後、駅前まで一緒にやって来ると、俺は七星に言った。
「じゃあ、ここでお別れだな」
「はい!今日は本当にありがとうございました!」
……色々とあったが、これで七星とも終わりだ。
霧真人色という人物は、七星と一緒に撮ったツーショット以外全て消滅する。
七星と一緒に撮ったツーショットが残るのは少し気がかりだが、それは俺の選んだことだから仕方ない。
俺がそんなことを考えていると、七星が続けて言った。
「また、一緒に出かけましょうね!」
……また、か。
そのまたは来ないと思うが、最後に七星を暗くするのは酷だからな。
俺は、その七星の言葉に合わせて言う。
「あぁ、またな」
「……はい!」
少し間を空けてから笑顔でそう言う七星を最後に、俺と七星は駅に入った。
これで、本当にまた俺の平凡な日常が戻ってくる。
駅に入った俺と七星は、それぞれ隣り合わせになって一緒に駅の改札を通り、階段を登って駅のホームに到着すると、電車を待つ。
「電車来るまであと2分ぐらいみたいなので、ちょうど良かったですね」
電車を待っていると、俺の隣で同じく電車を待っている七星がそう話しかけてきた。
「そうだな、ちょうど良い」
もし後少し早ければそれはそれで待つ時間を長く感じるだろうし、遅ければ逆に焦って電車に乗らないといけなくなっていたかもしれな────
「って、七星?」
「そういえば、どうして人色さんがここに居るんですか!?」
あまりにも自然だったため、互いが居ることに違和感を覚えなかった俺と七星だったが、ほとんど同時にその違和感に気づいてそう口にした。
「どうしてと言われても、俺は帰るためにここに居るだけだ」
「私もそうです!」
七星も……?……そうか。
「確か、七星が男二人に言い寄られてた日、帰る時に家は近いって言ってたな」
「はい、そうです!」
「俺もあそこには家から歩いて行けるぐらいには近いから、電車も一緒ってことだな」
「っ……!」
俺がそう言うと、七星は驚いたように目を見開くと、すぐに嬉しそうな表情をして言った。
「じゃあ、まだ人色さんと一緒に居られるんですね」
「……あぁ、そうだな」
────俺も、まだ七星から……そして、霧真人色から離れることはできないみたいだ。
その後、俺と七星は、電車を待っている間今日のことを振り返りながら軽く雑談すると、電車がやって来たので俺たちは電車に乗って、隣り合わせになって座る。
七星は電車に乗っている最中、常に口元が緩んでいたが、俺は特に気にせずにそのまま俺の目的の駅に到着すると、電車から降りた。
すると、案の定七星も同じ駅で降りて、改札から出ると俺たちは一緒に駅前に出る。
「七星はどっちだ?」
「あっちです」
そう言って七星が指を刺した方向は、俺と同じだった。
「一緒だ、途中まで一緒に歩くか」
「はい!」
俺と七星は二人で一緒に帰り道を歩く────そして。
「私、こっちです」
「そうか、俺はあっちだ」
いよいよ、俺と七星の帰路が別れたため、俺は七星に言う。
「七星、帰りは気をつけてな」
「まだ明るいから大丈夫ですよ!」
「そうだな……じゃあ」
そう言って俺が帰り道を進み始めた七星との別れ際────七星が、後ろから俺に向けて大きな声で言った。
「人色さん!一つだけ、良いですか?」
「あぁ、なんだ?」
そう言われた俺が後ろを振り向くと────七星は、俺に距離を縮めて来て言った。
「人色さん、駅前に到着した時、私に『またな』って言ってくれましたけど……あれって、嘘なんじゃないですか?」
◇
この作品の連載が始まってから、一週間が経過しました!
この一週間の間にこの物語をここまで読んでくださっているあなたのこの物語に対する感想や読んでいて楽しいと思ったところなどを、この一週間という節目にいいねや☆、そしてコメントや感想レビューなどで作者に教えていただけると幸いです。
今後もよろしくお願いします!
◇
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