第7話 ツーショット

 ソテーを食べ終えた俺と七星は、一緒に店内から出ると歩きながら会話をしていた。


「本当にご馳走してもらって悪いな、七星」

「今日はお礼ですから、そんなこと気にしないでください!むしろ、気にしたら怒りますからね!」

「……わかった」


 そこまで言うのであれば、本当に気にしないことにしよう。

 俺がそう考えていると、七星が言った。


「人色さん!さっきの写真の話なんですけど!人色さんが私と釣り合ってないなんて、もし私と写真を撮りたくない理由がそれだけなら、そんなことは絶対に無いので私と写真を撮ってください!!」


 ……七星も言っていた通り、男女二人で出かけるだけでも見方によっては意味が生まれてくる可能性があるのに、ツーショットなんて撮ったら余計に変な意味が生まれてしまうはずだ。

 そして、そんな意味を持たせたまま霧真人色という存在が無くなるというのは、きっと七星にとっても心にモヤが残るかもしれない。

 だから、俺はお互いのためにも写真を撮らない。

 ということで、俺は七星に伝える。


「それでも……七星には悪いが、やっぱりモデルの七星と俺じゃ────」

「人色さんは……本当は、私が人色さんに釣り合ってないから、私と写真を撮ることなんて人色さんの人生の汚点になるって思ってるんじゃ無いですか?」


 かなり飛躍した発想だが、それに対する問いは簡単だ。


「そんなことは思ってない」


 事実そんなことは思っていないため、俺がそのままを伝えると、七星は大きな声で言った。


「嘘です!もし私と写真を撮ってくれないんだったら、そう思ってるって解釈しますから!!」


 まずいな……この状況で断ると、容姿の整っている七星に容姿が整っていないと嘘を伝えるようなことになってしまう。

 嘘をつくという点で言えば、俺は今存在自体嘘をついているようなものだから抵抗感はないが、俺が平凡で居たいがために人に迷惑をかけてまで嘘をつくのは、俺が平凡で居たい理由から考えて本末転倒だと考えているため、その嘘をつくことで七星が今まで努力で積み上げてきたものを否定するようなことはしたくない。

 いっそのこと、実は異性と写真を撮ることに抵抗があるとか、純粋に写真を撮るのが気恥ずかしいとか、別の理由に切り替える……のはアリかと思ったが、七星は人と関わるという点で俺よりも経験値が圧倒的に高いから、そんな嘘は簡単に見破ってくる可能性があるし、何よりそんな実はの理由があったなら、さっき「もし私と写真を撮りたくない理由がそれだけなら」と言われた時に伝えるのが自然なことだ。

 だから、別の理由を作るのは難しい……かと言って、嘘をつくことは俺のポリシーに反する。


「……」


 俺は、数秒の間で様々なことを天秤にかけた結果────


「わかった、七星……写真を撮ろう」


 俺がそう伝えると、七星は明るい表情になって言った。


「本当ですか!?」

「あぁ」


 俺がそう返事をすると、七星はとても嬉しそうな表情でその場を飛び跳ね始めた。


「写真を撮るだけなのに、そんなに嬉しいのか?」

「嬉しいに決まってるじゃないですか!」

「……そうか」


 ……この選択が正しかったかどうかはさておいて、七星がここまで喜んでくれているのであれば少なくとも悪い選択ではなかったのかもしれない。

 その後、俺はハイテンションな七星に連れられて、写真を撮る際に背景としてとてもオシャレなスポットとして有名らしい場所までやって来た。

 すると、七星は最新機種と思われるスマートフォンを取り出し、インカメラにして俺と距離を縮めると言った。


「人色さん!もうちょっと私の方寄れますか?」

「あぁ」


 俺は、七星に言われた通りに七星と距離を縮めた。


「……」


 七星の手に持っているスマートフォンの画面に映っている七星は、何故か顔を赤らめていた。

 そして、七星はさっきとは比にならないほど小さな声で言う。


「と、人色さん……もう少し、寄れますか?」

「わかった」


 俺は、言われた通りに七星と距離を縮める。


「っ……!」


 すると、俺と七星の肩と肩が触れ合った。

 スマートフォンの画面に映っている七星の顔は、先ほどよりも赤くなっている。


「……素人の意見で悪いが、写真を撮るときは普通こんなにも距離を縮めるものなのか?」


 俺がそう聞くと、七星が小さく頷いて言った。


「は、はい……!こんな感じですよ!」

「そうか」


 少し距離を縮めすぎだと感じたが、それらのことに詳しい七星がそう言うのであれば間違い無いんだろう。


「じゃあ、えっと……写真、撮りますよ?」


 俺がそれに対して頷くと、七星は頬を赤く染めながらも口角を上げて、流石モデルと言った具合に瞬時に画角に合わせたちょうど良い綺麗なピースを作ると、写真を撮った。


「ちゃんと撮れてるか?」

「い、今確認します!」


 七星は、慣れた手つきでスマートフォンを操作すると、今撮った写真を表示させた。

 ────そこには、ブレが全く無く、綺麗に映っている俺と七星のツーショットが表示されていた。

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