第6話 デート?
「デート……?」
俺は突然の七星の発言に少し困惑の声を漏らすと、七星が慌てた様子で両手を前に突き出してその手を振って言った。
「ご、ごめんなさい!変なこと言って!ただ、男の子とこうして二人だけで出掛けに来るって初めてだったので、今まで外目に見てたのを自分がしてるんだって思うと、なんだか色々と思うところがあって……!」
「別に謝ることじゃない……というか、男の子と出かけるのが初めて?七星がか?」
華の高校生になり、ルックスも優れていてクラスの人気者……そんな七星が、男の子と出かけるのが初めて?
俺がそんな七星の言葉に困惑していると、七星が頷いて言った。
「はい、複数人でなら何回もありますけど、二人で出かけるのはこれが初めてです」
「意外だな……誘われたりしなかったのか?」
「誘われたことは何度もあったんですけど、二人で出かけるってなるとやっぱりそれ相応の意味が生まれちゃうじゃないですか?年下の子はそういう相手として見れなくて、同い年の子はなんだか子供っぽく見えて、年上の人は下心が見え隠れしてて……みたいな感じで、今までは色々と理由をつけて全部断ってきたんです」
「そうか……それは確かに苦労しそうだな」
七星は、ルックスはもちろんのこと、職業がモデルという時点でモテそうだし、加えて性格も関わりやすい方なはずだ。
それなのに、毎回毎回誘われては断るというのは、かなり心労が堪えないだろう……だが。
「それなら、今日はどうして俺と二人で街に来たんだ?」
今の話を聞けば、おそらく俺で無くとも出る疑問を七星に聞いてみると、七星は俺の目を見て言った。
「それは……もちろん、助けてもらったお礼をしたかっていうのもありますけど……人色さんは、同い年だけど大人びてて、すごくて、かっこよくて……私のことを見た目とか、職業とかで見てない感じが伝わってきて、その……」
その後、七星は頬を赤く染めて何かを言おうとするも口を閉ざしてしまい、沈黙した。
……七星がどうして沈黙してしまったのかはわからないが、とにかく俺に良い印象を抱いてくれているということはわかった。
「もういい、とりあえず俺と居て嫌な気はしないからってことだな?」
「そ、それは、はい!もちろんです!人色さんと居て、嫌な気なんて絶対にしないです!むしろ、その……」
七星は、またも少しの間沈黙した。
一緒に居て嫌な気がしないと言われるのは悪い気はしない。
悪い気はしない……が、困ったな。
俺は、平凡な存在で居るためにも、今日で霧真人色という人間の存在を七星と関わるのを辞めるのと同時に消し去ろうとしている。
だが、七星が俺に少なくとも嫌な気を抱いているわけではないのであれば、それをどう切り出したものか。
俺がそんなことを考えていると、沈黙を破った七星が明るい声で言った。
「人色さん!良かったらなんですけど、私と写真撮ってくれませんか!?」
私と……?
……写真を撮るのはわかっていたが、まさかそれがツーショットだったとは。
でも、確かに俺だけを撮る方が不自然だし、ツーショットなのは当然と言えば当然なのかもしれない。
そして────俺は、どちらにしても断らせてもらう。
「俺が七星の隣に立って写真を撮るのは無理だ」
俺がそう伝えると、七星は明るい表情から暗い表情になった。
少し直接的過ぎるかもしれないが、こういうのはハッキリと伝えた方が良いだろう。
暗い表情になった七星は、落ち込んだような表情で言った。
「それって……釣り合わないから、ってことですか?」
話が早くて助かるな。
「そうだ」
俺ではモデルと評されている七星の隣に立ってツーショットを撮るのに釣り合わない、誰がどこから聞いても妥当な話だろう。
七星がすぐに俺の心情を理解してくれたおかげで、この話は早く終わ────
「確かに、私じゃ人色さんに釣り合ってない……ですけど、でも!いつか絶対に追いついてみせるので、今の未熟な私とも写真を撮って欲しいです!」
……え?
「待て、七星……釣り合わないっていうのは、七星の方が釣り合ってないって意味じゃなくて、俺の方がモデルの七星には釣り合ってないって意味なんだが」
「……え?」
「……え?」
俺たちは、互いに互いの言葉の意味が理解できずに、その場は少しの間困惑で埋め尽くされた。
────かと思えば、その沈黙を破るように七星が言った。
「何言ってるんですか!人色さんは自覚してないみたいですけど、本当にかっこいいですよ!綺麗な目で、顔立ちも整ってて────」
「お待たせしました、ソテー二つです」
「は、はいっ!」
七星が何かを言いかけたところで、俺たちの注文したソテーが届き、七星は驚きの込められた声でそう返事をした。
店員さんはそんな七星のことを見て小さく微笑むと、俺たちの元から去って言った。
すると、七星は小さな声で呟き始める。
「危なかった……私、人色さんのこと、隅々まで褒めて変に思われちゃうところだった……ていうか、店員さんが来たことに驚いて変な声で返事しちゃった……引かれてないよね……?」
「七星?」
七星が何を言っているのかは聞こえなかったが、七星の様子がおかしいことに間違いは無いため、俺が気遣うように七星の名前を呼ぶと、七星はそれを誤魔化すように慌てた様子で言った。
「な、なんでも無いです!それより、ソテー食べましょう!」
「あぁ」
そして、俺はどこか様子のおかしい七星と一緒に同じソテーを食べ始めた。
……七星の身に何が起きているのかはわからないが、俺には関係のない話だ。
────霧真人色は、今日で存在ごと消えるのだから。
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