第4話 話し相手
どうして七星は、平凡な俺に話しかけてきたんだ?
もしかして、もう霧真人色の正体が俺、真霧色人だとバレてしまったのか?
……違うな、そうだとしたら、七星の性格上もっとオーバーなリアクションをするはずだ。
つまり、話しかけてきたのは別の理由……だが、どちらにしても今はまだ話し相手になってくれないかと聞かれているだけなため、ここからならいくらでも関わらない道はある。
「悪い、今はちょっと忙しいから他を当たってくれ」
これで解決……かと思われたが。
「今日早く登校して来ちゃって、その他が居ないんだって、だからその他の子が来るまで話し相手になってよ」
なるほど……ようは、暇つぶしということか。
だが、七星は肝心なところを忘れているらしいな。
「俺は他を当たってくれと言ったが、忙しいからとも言ったはずだ……その点についてはどう思ってるんだ?」
「普通に嘘でしょ、だって何もしてないじゃん」
「今からするところだったんだ」
「もう!そんなこと言ってないで聞いてってば!」
俺は一切七星の話を聞くとは言っていないし、頷いても居ないはずだが、七星はそう言うと続けて話を始めてしまった。
「昨日、夜道を歩いてたら男二人に言い寄られてたんだけど、そこでかっこいい男の人が颯爽と現れてその二人のことを倒して、私のことを助けてくれたの!」
「そうか、そんなこともあるんだな」
聞いて欲しいことというのは、昨日のあの夜のことか……まぁ、当然今の俺はそんな話を知らないフリをしておくのがこの場での正解なため、適当に相槌を打つ。
「うん!それで、その人がもう本当にかっこいい人で、落ち着きもあって……年上の人なのかなって思ったら、私と同じ代で、連絡先も交換しちゃったの!」
「そうか」
「もう!真霧、ちょっと反応薄くない?その人本当にかっこいい人なんだって!真霧も、その人の顔見たらかっこ良すぎてきっと倒れちゃうよ!」
「そんなことあるわけないだろ?」
残念ながら、俺は自分の顔を見て倒れるほど異常者では無いため、そんなことは起きないだろう……というか、こうも直接褒められると少し恥ずかしさを覚えてくるな。
まぁ、本人は直接というつもりは無いと思うが。
俺がそんなことを思っていると、七星は前のめりになって言ってきた。
「本当だって!じゃあ、今度その人にお願いして写真撮らせてもらうから、その時感想教えてね!?」
どうして自分の顔を見てその感想を七星に教えないといけないんだ……と思ったが、これはそもそも俺が霧真人色として七星に写真を撮らせる許可をしなければ良いだけなため、頷いておいても良いだろう。
「わかった、その時は感想を伝えよう」
「約束だからね!あぁ〜、あの人が同じ学校だったらなぁ〜」
まさか目の前に居る人物がそうだとは、夢にも思っていないだろうな……直後、七星の友達が教室に入ってきたのか、七星は俺に「じゃあ、さっきの話、約束だからね!」と言って俺に手を振ると、その友達の方へと走って行った。
きっと、さっき俺にしたことと同じ話をしているんだろう。
ただ話し相手になるだけのはずが変な約束をされてしまった。
でも、あの約束については俺の方でコントロール可能だからあまり気にすることではないだろう。
そう、あの約束に関しては気にすることではない……が、やはりこれ以上変なことになる前に、できるだけ早く霧真人色として七星との関係を絶たないとな。
────そして、その日の放課後。
霧真人色としての俺に、七星からメッセージが飛んできた。
『人色さん!今週の土曜日って空いてますか?』
『空いてる』
『じゃあ、今週の土曜日に二人でご飯食べに行きたいです!』
『わかった』
『ありがとうございます!今から本当に楽しみです!』
というメッセージのやり取りによって、今週の土曜日に七星とご飯へ行くことが決定した。
────そして、土曜日。
「……今日で霧真人色として七星と関わるのは最後にして、霧真人色という存在も無くそう」
そう決意した俺は、前髪を上げたヘアセットをして、ファッションも普段の平凡な真霧色人の時よりも気を遣うと、家の外に出て七星との待ち合わせ場所に向かった。
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