毛田雄平

『友人と縁を切ったきっかけ』




 これは、僕が友人と縁を切るきっかけとなった話。

 友人の名前は……Aとでもしておこうか。

 僕はアイツの、いやアイツのあの笑顔を、いつまでも忘れないだろう。




 夏の日差しが強烈に降り注ぐ中、僕は公園のベンチに座っていた。

 蝉の声が耳を突き刺すような、そんな日だった。


 突然Aは得意げに「おい、見てみろよ。これ、すごくない?」なんて言って、何かの缶を見せた。

 中を覗き込み、僕は「ひ……っ?!」と情けない叫び声をあげてしまった。

 中には蝉がぎっしりと詰め込まれていた。生きている蝉もいれば、もう動かない蝉もいた。


 僕は吐き気を感じたが必死に堪えて「ちょ、A!! なんでそんなことするんだよ?!」と尋ねた。

 しかし、アイツはただ笑った。

 アイツにとっては、ただの気まぐれだったのだろう。

 でも、僕には違った。それは、残酷な行為だった。


 Aは僕の幼なじみで、いつも一緒に遊んでいた。

 だけど、アイツには暗い一面があった。

 小さな生き物をいじめることに喜びを感じる一面だ。

 小さいアリに始まり、道端にいた毛虫や蝶、理科室のカエルやメダカ、教室のカブトムシ……その他諸々。


 Aは「これ、放っておく?」と僕に尋ねた。僕は何も言えなかった。

 そんな僕を見て、つまらなそうにAは缶をベンチの下に置いた。


 次の日、僕は一人で公園に戻った。缶は潰れていて、中の蝉たちはすべて死んでいた。彼の行為が、僕の心に重くのしかかる。


 それから、僕たちの関係は変わった。彼とは距離を置くようになり、あの公園にも近づかなくなった。




 時は流れ、僕たちは大人になった。

 彼はどこか遠くへ行ってしまったが、その後も小さな命を踏みにじる事件が後を絶たなかった。


 最近、あの公園で猫の死骸が見つかったと聞いた。

 どれも子猫。

 噂では、いくつかの死骸には凶器で頭部を潰されたような跡や、靴で踏まれたようなのあったらしい。

 ……Aの仕業だろうか。

 真相はわからない。


 でも、あの夏の日、僕は何かを止められたはずだ。


 僕は今でも、あの日の後悔と、Aの笑顔を忘れることができない。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ある人の体験談 コチョタイ @amva_sazarrana

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ