手拭い

千織

岬に立つ女

こごがらここから山一個超えだどごに、岬があるんだげども、そごさそこに時たま髪の長ぇ女がいるんだなす。



村の娘がよぉ、赤ん坊あかんぼ腹さ入ったって男さ言うどよ、男は逃げでしまっで、娘は泣いで泣いで、赤ん坊ど一緒に死ぬべ、って岬さ行ったのす。


したらば、そこに髪の長ぇ女がいでな、「なじょしたどうしたの? 話っこ聞くべ聞くよ」って言ったのす。


娘が話すとな、「なんたらなんと気の毒に。そったらそんな男のために死ぬこだねぇ死ぬことはないべじゃ。なんとかしてけらあげよう。男の物はぁ何が持っでらが持っているか?」って女が言うのす。


たまたま男が使ってら手拭いを持ってらすけいたので、女さ渡すと、「しばらく貸してけらちょうだい」と言っで、持ってったず。


娘ははぁもう不思議な気持ちさなっで、死ぬごども忘れで家さ帰ったず。



日が暮れで、娘が腹っこさすりながら寝っぺ寝ようと思ってらどぎに、家の戸を叩く音がするのよ。


娘はぁ驚いで、布団こ被って念仏唱えだず。


だばすると


おらだじゃ俺だよ、入れでけろくれ


って、男の声っこだっだのよ。


帰っで来たんじゃぁ帰って来たんだあと娘はぁ喜んで、戸を開げると、間違ぇなぐ、男だっだのよ。



それがら、娘は男ど暮らしだんだず。

腹大っきぐなってぇ、いよいよ赤ん坊生まれらってどぎに、近所の女どもが手伝いさ来たんだけども、男の姿が見えねぇど見えないと


心配は心配だけどもす、そっだらごどそんなこと考えでら暇なくて、娘は赤ん坊産んだず。


おんぎゃあ、おんぎゃあと、泣ぐ|赤ん坊見たらばよ、娘ははぁもうかわいくて、


めんけぇなかわいいなめんけぇなかわいいな、おらはぁぜって絶対この子はぁ大事さする」


と、思っだのよ。

男さもはやぐ見せて早く見せたい、と思っで待っでらけど、ついにその日は男は帰って来ながっだず。



あくる日、男が岬の下の海で見つがったのす。

男は人の皮だげになって浮いてで、骨も肉も無がったんだず。


村の人間はぁびっぐりして、化げ物の仕業じゃねぇがっておっかながって怖がって、さぞ娘っ子は悲しんでらべど思ったなす。


したらばそうしたら娘はぁ悲しんでら風もねくて、様子もなくて赤ん坊をめんけめんけかわいいかわいいあやしてらどあやしていた


なして驚かねぇのだどうして驚かないのだ?と村人が聞くど、



「前に岬で女に会っだどぎ、逃げだ夫の手拭い渡しだんだ。夫が戻ったどぎ、その手拭い持ってらがら持っていたからあんやこれは化け物がもしんね化け物かもしれない、と思ってらけど、おらはぁ私はもう一度は死ぬど思った身すけ身なので、化け物でも夫どしで迎い入れで、赤ん坊す産むべど産もうと思っだのよ。夫はぁ優しぐで、もう人か化け物がはどうでもいぐなったよくなったのす。んだがら、もし化け物だっだどしてもよぉ、海にけぇっただげだがら、おらはぁめんけもうかわいいこの子を大事にするだげだぁ」


と言って、赤ん坊をあやしてらんだずあやしていたんだ



村人はぁいよいよおっかなくて怖くなって、男の皮を山さ深く埋めだんだず。


したっけばそのあと、娘の元さいつの間にがあの手拭いがあったんだず。

誰か夫の形見どして持ってきでらんじゃねぇが持ってきてくれたんじゃなかろうかと思って、みんなさ聞ぎ回ったけども、誰も手拭いなぞ手拭いのことなんか知らねがっだず知らなかった



岬ははぁ見晴らし良くて、寄りたぐなるのもわがっけどもわかるけれども、岬さ行って女がいだらば気ぃつけるんだじゃ。

声かげねのす声をかけないのだよ

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

手拭い 千織 @katokaikou

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説

ユキ

★9 ホラー 完結済 1話