第63話 王都でデート
「アイク様。お待ちしましたか?」
魔人崇拝者の拠点を倒したちょっと後……ブラックドラゴンが産まれるちょっと前の話。
ここは王都の入口。
俺、アイク・ハンバルクは緊張していた。理由は俺の嫁、兼、最推しであるルナとデートをすることになったからだ。
「いいや。全く待っていない……それでは行くとするか」
今日もルナが可愛い。
ルナは今日はお出掛けということもあって白のワンピースを着ている。
長い銀髪は絹のようで、眼鏡のレンズ越しに見える大きな瞳は俺の心を惑わせる。
「はい♡」
もちろん声も可愛らしい。俺の鼓膜が喜びで震えているのを感じる。
まさか嫁なんだから緊張することはないよな?? そう思っている奴らに言ってやりたい。
恋から来る緊張ってのはいつまで経っても緊張する。
好きという感情が薄れないのだ。それだけルナが魅力的なのだ。
そうだ。強いて言うならルナが魅力的なのがいけない。
曰く、どんな生き物でも一生の内に心臓が鼓動を鳴らす回数は決まっているらしい。
個体差はあれど、どんな生き物でも寿命がある。
だけどこのままのペースだと早死は免れないだろう。
まぁ、ルナのためなら喜んで寿命を減らす所存だけどな。
ルナは俺をチラチラと見つめている。
ルナからは
そんな俺に対して
むしろバンバン来て欲しい。
「どうかしたか?」
俺はルナに問いかけると、
「あ、あの……アイク様。手を……握ってもいいですか?」
「もちろんだとも。好きなだけ組むがいい」
「ふふっ……ありがとうございます」
ルナは微笑んで、俺の左手にルナの細い指を絡ませる。
うおおおおっ!! スベスベ!! 柔らかい!! 良い匂いがする!!
「やっぱり……子供っぽいでしょうか……?」
ルナは照れたように言う。
「まさか。そんな訳がないだろう。カップルが手を繋がずに歩くのは、ただの散歩だ。そんなものデートとは言わない」
俺はキザったらしく言う。
よし。これで心臓がとんでもない速度で鼓動を奏でているのを悟られないはずだ。
「やっぱり……アイク様は優しいですわね」
ルナは頬を赤く染めて照れたように呟く。
ルナの照れた表情はプライスレス。
心のスクリーンショットに保存しておこう。
「ルナ。最初に行きたいところはあるか?」
「言っても怒らないですか……?」
「問題ない。今日はデートだからな」
俺はそう言うとルナは恐る恐る。
ワガママを言い慣れていない子供のような仕草で口を開いた。
「私、屋台のものを買って食べてみたいです」
「……それだけか?」
「やっぱり……はしたないでしょうか?」
「まさか。この王都の民だって屋台で買ったものを外で食べているんだ。皆がそうとは言わないが別におかしな行動ではない」
「……ありがとうございます!」
「それに折角のデートなのだ。ルナがしたいならば俺はいくらでも付き合うさ」
俺達は近くの屋台に向かう。
屋台にはいわゆるホットドックが売られていた。
パンにソーセージを挟み、その上にチーズをかけている。
いつも食べているものと違い、かなりジャンクではあるが、とても美味しそうだった。
思ったよりも空いていたおかげで、屋台でさらっとホットドックを買ってルナに渡す。
「じゃあ、そこらへんで食べるか」
ホットドックを食べるために、握っていたルナのか細い手が離れる。隣にいるのにやっぱり寂しい。
ルナはホットドックにかじりつくと、
「うわっ……すごく美味しいです」
ルナは目を輝かせていた。
お口に合ってなにより。
「実は……子供の頃から少しだけ憧れていたのです」
ルナは嬉しそうに話始める。
「一応、私は貴族として育てられたので……こんな風に外で誰かと食べることはありませんでした。やっぱり楽しいです
ね」
ルナはホットドッグを俺に向けて、
「私のも食べてみますか? なんて」
「もちろん頂こう」
俺はルナのホットドックにかじりつく。
「ふえっ……!!」
「うん。美味いな」
味は同じはずなのに、ルナのホットドックの方がより美味しく感じた。
「わ、私も頂いて良いですか?」
「あぁ。好きに食べるがいい」
俺もルナにホットドックを向ける。
ルナは俺のホットドックにかじりついた。
チーズが溢れ床に落ちる。
「アイク様のほうが美味しいですね」
ルナはイタズラっぽい笑みを浮かべる。
きっと俺はここで食べたホットドックの味を生涯忘れることはないだろう。
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★あとがき★
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ざまぁ確定の悪役貴族に転生した俺が、最推しのラスボスヒロインと結婚することになったので原作知識をフル活用して幸せになります~なお、嫁を馬鹿にした勇者は俺の敵じゃありません~ 東田 悠里 @higashidayuri
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