第2話
暗闇の中に俺はいた。
「ここは?」
周りを見渡すと光が差している空間があった。
光に向けて一歩踏み出すとあたりが暗闇から町中に風景が変わった。
「ねぇ、聞いてるの?」
隣にいる誰かに声を掛けられそちらを見るがそこにはぼやけた風景しか存在しない。
「・・・」
口を開くが声は出ない。
「はぁ、いつも言ってるでしょ。あなたは私の・・・なんだから。ちゃんとしてよね。」
ぼやけた風景の向こうから声が聞こえてくるが男か女かも判別できない程かすれしゃがれていた。
意思とは関係なく体が動き歩みを進めていくと風景が変わる。
見覚えのない風景に世界が切り替わると世界は赤く変わっていた。
瓦礫だけではなく地面は荒れあちこちに血痕のようなものが撒き散らされている。
「おねがい。いかないで。私にはあなたが、あなたじゃないと・・・」
聞こえてきた声は徐々に薄れていき聞こえなくなった。
誰が発したか分からない言葉だが声を聞いた時にどこか懐かしいような気がした。
そして世界は暗闇に染まった。
目を開けると白い天井が目に入った。
「ここは・・・」
体を起こし周りを見る。
「どこだここ?病院じゃないよな?」
枕もとを見てもスイッチらしきものもないし点滴を受けていたわけでもなさそうだ。
「昨日・・・なにあったけ。」
記憶をたどって昨日あったことを思い出してみる。
朝起きて会社へ行き夕方から上司と居酒屋へ行ってというところまでは覚えている。
その後の出来事は断片的にしか思い出せない。
「公園に行ったら化物がいてその後どうしたっけ。」
ガラガラと扉があく音が聞こえてきたためそちらを見る。
「気が付きましたか。具合はどうですか?」
鈴をふるような声が聞こえてきた。
そこには肩口で切りそろえられた髪をハーフアップにしビジネススーツを着た目の覚
めるような美人がいた。
「特に体調は問題ないです。」
「それはよかったです。」
そう言い女性は微笑んだ。
「あの、ここは何処ですか?」
「ここは私の職場のようなものです。昨日のことはどこまで覚えていますか?」
「昨日ですか?」
ベットがいくつも並び職場というにはやや広すぎるようなきがしないでもないが今は現状の確認の方が大事だろうと思い聞かれたことに対して答える。
「夜に公園に行ってそこで化物に襲われて・・・そうだ、俺の他に人いませんでしたか?」
「安心してください。
「魔物?」
「はい、魔物です。襲われた後の記憶はありますか?」
微笑みながら女性は聞いてくる。
「あー」
思い返してみるが、跳びかかってきたあとの記憶はない。
「いやそこまでです。」
「やはり、そうですか。」
目の前の椅子に腰かけながら僅かに口元に笑みをたたえ女性は言った。
「やはりとは?」
「そうですね。そこを説明するには、私たちの組織について説明をしてからの方がいいでしょう。」
「組織ですか?」
「はい、
「はぁ」
思わず気の抜けた返事を返してしまった。
女性はくすくすと笑いながら説明を続けた。
「私たちの組織とは魔法使いが集まり人のために戦う組織です。」
「魔法使い。」
非現実的な話をされておうむ返ししてしまった。
「ええ魔法使いです。」
「ええとそれは・・・隠語的な話ですか?」
「いいえ。言葉通りの意味ですよ。」
女性はまたも笑い続けた。
「この世界には昔から魔法というものが存在していますよ。たとえば、そうですね日
本で言われる妖怪とか。」
「妖怪ですか。」
「はい。あとは、神隠しなんていうのも魔法によるものだったりします。」
たぶん今の俺はとても渋い顔をしている事だろう。
いきなり魔法だなんだと言われたところで信じられるわけもないに決まっている。
そんな気持ちを察したのか女性は懐から短い杖のようなものを取り出すとその先端に火を灯した。
「これで少しは信じてもらえましたか?」
「う・・・」
女性の言葉に声が詰まる。
「最初のうちは皆さんそうですよ。特に魔法使いのいない家庭なんかは特に。」
「そうなんですか。」
「ええ。組織には魔法使い以外の人間も協力者としていますので。」
「なるほど。」
「さて、魔法使いがいるとわかってもらえたところで昨日の話なんですが。」
「はい」
「時久さん。なぜ、公園に近づいたんですか?」
「なぜって。音が聞こえてきてそれで。」
「音ですか。」
「はい。何かおかしいんですか?」
「昨日のあの時間ですが公園には結界が張ってあったんですよ。」
「結界?」
「外から中が見えないようにと人避けの為にですね。魔物の存在が一般の方たちに知
られてしまうと大騒ぎになってしまいますので。」
「ああ、あの幕みたいなの結界だったのか。」
「もう一度聞きますがご家族に魔法使いがいたりは?」
「聞いたことないですね。」
「となると。やはり、後天的な覚醒ということになりますかね。」
「後天的ですか?」
「ええ。普通魔法使いが扱う力は知覚できないものなんですよ。同じような力を扱う
ものには感じられますが。そうですね、本はお読みになられますか?」
「学生の頃はよんでましたが。」
「それなら魔力と言った方が分かりやすいですかね。魔法使いにしか魔力は認識でき
ないため結界が張られていると魔法使い以外の人間は張られた場所に対して意識できなくなるはずなんです。けれど時久さんは音というわずかな異変だけで結界が張られている公園まで行き結界の内側に入った。ということは結界の内側の魔力を無意識的に感じたということですね。」
「じゃあ、俺は魔法使いの才能があったと?」
戸惑いながら俺は聞く。
「才能という意味ではないと言った方がいいですね。」
「はぁ」
「魔法使いは主に二通りのなり方があります。」
指を二本立てながら女性は言う。
「先天的な場合は主に両親のどちらかが魔法使いの家で生まれた人間です。才能という意味ではこちらの方になりますね。血に流れる魔力によって力を得た人間ですね。後天的な物では魔法使いの魔力を受け続けて力に目覚めることが多いですね。」
「魔力を受け続けて?」
「はい。多くの魔法使いは身に宿る魔力を完全にはけすことができないので、無意識
で漏れた魔力が周囲に影響を与える場合があります。」
それで、家族に魔法使いがいないかを聞いていたのかと得心が行った。
「まあ周囲が影響を受けるほどの魔力持ちがいたら私達が気が付かないことは無いのでそれはないとは思いますが。」
「どっちなんですか。」
「正直に言うと原因は不明と言った所ですね。」
「原因不明ですか。」
「ええ。まあ今の時久さんは魔力持ちではあるのは間違いないんですが。」
「じゃあ俺は魔法使いになったと?」
「魔法使いというかなんというか・・・。えーと先に説明しても良いんですがやはり当事者が居た方が良いと思うんで少しお待ちください。いま呼んでますので。」
「当事者ですか?」
「はい。あなたが魔力持ちになったこと記憶がないことも含めて公園であったことを
確認した方がいいと思うので。」
「公園で・・・」
彼女の言うことが本当かどうかを今の俺が判断できる材料は持っていない。
しかし、彼女の表情はとても嘘を言っているようには見えない。
だけどなぜだろうか、彼女の目は何処か喜びの光と悲しみの光が同居した複雑な色を帯びたそれをどこか懐かしいものだと感じている自分がいる。
さすがに彼女の言う当事者とやらが来るまで黙っているというのも居心地が悪く何かを話すべきなのだろうが何を話すべきかと考え基本的なことを知らないことに今更ながら気づく。
「あの?」
「はい。どうされました?」
「あなたの名前をおしえてもらっても?」
俺がそう問うとなぜか彼女は寂しそうに笑った。
「すいません。私も気が動転していたんでしょうね。名前でしたね。私は
そう言いながら彼女は名刺を差し出してきた。
それを受け取りながら再び見た彼女の表情は先程とは違いそこに何らかの感情がのせ
られてはいない笑顔があるだけだった。
「あのどこかで俺達会ったことあります?」
「え?」
思わず口から漏れでた言葉だったが、これはたから見たらナンパみたいに見えるんだろうかなどと見当違いな考えを思い浮かべながら言葉を続ける。
「その会ったことあったら悪いんですけど俺昔のこと所々覚えてなくて。」
「あの、それは。」
「ああいや、全然気にしてないんで。何年か前に医者から記憶障害って言われてまして、今でも昔のこと思い出せてないんでその時にあった人なら申し訳ないなって。」
「記憶障害・・・」
「昔のことって言っても一応両親とかからは話聞いたりしたんだけど全然思い出せなくて。」
「そうなんですか。」
「もしかしたらその期間でその一杜さんが言ってた魔法使いってのに関わっていたのかなって。」
冗談めかしてそう言うが彼女はなぜか悲しそうな困った表情をしていた。
そうして沈黙が下りやってしまったと思っていると、ガチャリと扉が開く音が聞こえてきた。
扉の方に目をやると勝ち気そうな目をし磁器のように白い肌の長い髪をもつ人形のような少女がいた。
「一杜さんお呼びでしょうか?」
「八束さんちょうどいいタイミングね。時久さんこちらはうちに所属している八束さやかです。公園で時久さんがあった子です。」
紹介され目の前の少女を見る。
記憶の中の人物はローブを着て暗闇の中に立っていたため顔の細部までの判別はできておらず、またどこか威圧感のようなものを感じていたためかその体躯まで大きく感じていたが実際の人物は全体的に小さかったが目は強い意志を感じさせる光を灯していた。
「どうも、八束といいます。」
「ああ、勅使だ。」
「さて、挨拶も済んだことですし公園の件の詳しい話をしましょう。八束さんお願いします。」
「はい。勅使さんはどこまで覚えていますか?」
「ええと公園に行って結界とやらの中に入って八束さんと会ったところまでですかね。」
「では私と会った後の話ですね。私はあなたに対してなぜ結界の中に入ってきたのか質問しました。私たちが問答している最中に魔物が現れてあなたが倒しました。」
「俺が?」
「はい、あなたがです。けどその際、負傷をしたためここに搬送しました。」
「八束さんちゃんと言わないと駄目ですよ。」
一杜さんがそういうと八束と名乗った少女は目線を泳がせながら下を向いてしまった。
まるで、怒られるのを嫌がる幼子のように。
「勅使さん、あなたが魔物を倒したのはですね契約をしたからです。」
「契約?」
いきなり面倒な言葉が出てきたぞと思いながら疑問に思ったことを問う。
「した覚えがないんですが誰となんの契約ですか?」
「こちらにいる八束さんと主従契約です。勅使さんは八束さんの使い魔となりまし
た。」
職業:会社員から使い魔へ新たな人生は魔法と共に @yuu1993
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