第3話 楽しみにしているわ。それともう一つ

 春、それは3月で別れ、4月で新たな出会いが訪れる季節。桜が満開に咲き、どこか誇らしげに見える。けれどそれも今週末の雨には耐えられない。地元を離れて他県の高校に入学し、新たな生活が待っている。

「荷物はしっかり届いた?」

「届いてるよ。母さんわざわざ電話かけてこなくてもいいのに」そういうわずらわしさが嫌で家を離れたというのに。

「ナントイウカ私もそう思うんだけどね、お父さんがね、、。ナントイウカ心配で仕方ないみたいで」

「なら自分で電話すればいいのに」ナントイウカ私もそう思うんだけど…母さんはぼやく。何かあるとそう言うが、この口癖に本人は気づいていない。

「だそうよ、お父さん何かあるなら直接言ってあげてください」

「えっ。今繋がってんの?」

「スピーカーになってるから。」そういうことは初めに言って欲しかったよ母さん。

「友一!荷物はちゃんと早めに整理するんだぞ。あと自炊もしっかりしなさい、面倒くさいからと言って、コンビニ弁当ばかりではだめだ。それから、」

「もういいかな、さっそく父さんの助言通り荷解きをしようと思うんだけど」

「ちょおっと!友一!まだ話は終わっていないぞ」

「はいはい、ありがとう~。何かあったら連絡するね。それじゃあまた」

 電話を切ろうとするとお~いと声が聞こえる。ナントイウカアサンだ。

「まだ何かあるわけ?」

「ナントイウカお父さんもあれでも結構心配してるみたいなのよ。勿論私もよ。だからね、本当は毎日かけてほしいけど、それは無理だろうからたまにはかけてくれると嬉しなあって」

どこか不安が混じった声でナントイウカアサンは言う。

「分かったよ、心配かけない程度にはちゃんと連絡とるよ」

「楽しみにしているわ。それともう一つ」

心配してくれるのは嬉しいけど、まだ何かあるのかとあきれてしまう。携帯電話の充電残量を確認した。30%か、ギリギリだな。早めに切り上げないと落ちるなとか思ってるとナントイウカアサンが重要な事を話すと言っている。

 父さんの前では言えない事なのかと緊張していると、

「学校の場所はちゃんと確認していた方が良いと思うの。母さん昔、迷って登校日初日に間に合わなくて友達ゲットスタートキャンペーンに間に合わなくて。ナントイウカ色々あって一週間出遅れてね、最初が肝心の友達作りに手こずっちゃって」

生まれて初めて聞くよ、そのキャンペーン。一体どこが主催しているんだ。友達作りに手こずったと言っているけれど、なんやかんやで友達とは未だに連絡を取り合い、贈り物が届くことがある。それぐらい長い付き合いの友達がいるから意外だった。

「寮に入っていたからね。自然とこう仲良くなるのよ。共通の敵がいたりして」

寮だけで一週間の出遅れを無いものとする具合の追い込みとか絶対他にも何かあったでしょ。そんな変わり者と仲良くできるのかという疑問が気になるけど充電がないし、また今度ゆっくり聞こう。

「分かった。そうならないように一度見てくるよ。」

「そうした方が良いと思うわ。それだけだから、さよなら」

そうしてあっさりとあちらから切られた。ホントに自由な人だよ、ナントイウカアサン。

 まさか、本当に自分が登校日初日には学校に行けず、一週間で遅れどころか、4月をすっ飛ばし、驚異のGW明けまで行けなくなるとは、ここから追い込むことはできるのだろうか。母さんより酷くなってしまった。そして、一番の変わり者は俺だった。

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ドキドキ?!仮面をぶち破れ!! 筋骨 @kinnko

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