第23話:異世界生活二日目突入。爽やか(?)な朝

「……あの神様、俺に何かしら謎を残さないと気が済まないんだろうか」


 寝ぼけた頭で最初に思い浮かんだ言葉はそれ。しかも思うどころかしっかり口にする辺り、自分で思ってる以上にイラッとしたようだ。まああんな別れ方じゃそれもしょうがない。

 なのでちょっと不敬かもだけどこれくらいの愚痴は見逃してほしい。そんなこと気にするような神様でもないだろうけど。


「ん〜っ」


 世界が薄ら明るくなっていく中、俺は静かに目を開けて起き上がり、ゆっくり伸びをする。


「ふぅ」


 でもって深呼吸。


 うん、あんなことあったけど寝起きは悪くないね。気分爽快。


「……ん?気分、爽快?」


 精神的にはちょいモヤっとしてるって自覚あるんだけど、それにしたって。


「軽い」


 ベッドから降りてとりあえず屈伸してみる。


「おお?なにこれ?ナニコレ?」


 そのまま軽く身体を動かす体操してみる。


「軽っ。めっちゃくちゃ軽い!」


 そう、言葉通り身体が軽いんだ。しかも頭も気分もスッキリ爽快。胸はほんのちょっと重いけど。


 俺は喜びと感動で震えた。


 元は社会に出て不摂生の積み重ねでボロボロになったアラフォーの、しかも病に侵されてた身体だ。爽やかな朝など夢のまた夢だった。


 素晴らしい。ただ朝を迎えるだけのことがこんなにも違うのか。

 うぉーなんかこのままめっちゃ身体を動かしたい。

 が、今の俺は借りたバスローブの姿だ。


 とにかくまずは着替えだな。


 俺の着てた服は〜……


「うわっ!?!?!?」


 着替えを探そうとキョロキョロしたら、俺の着てた服が畳まれた状態でふわふわ飛んで近づいてくるんだが?めちゃくちゃ恐怖なんだが!?


「ポ、ポルターガイスト現象!?」


 ホラーかよ!?俺怖いの苦手なんだって!


「こっちくんなぁ!」


 そんな俺の否定を完全にスルーしながら服がどんどん近づいてきやがる。そのまま俺はベッドの隅まで追い詰められた。そこでふと気づいた。


 あれ?これって、もしかしてだけど、魔法?


 この世界は魔法があるんだから、あれくらいの超常現象朝飯前なのでは?


「なんだよ驚かすなよぉ」


 その答えに辿り着いたら、恐怖は一気に霧散して力が抜けた。


 盾に使ってた枕を放り投げてベッドにダイブ。

 あーめちゃビビった。まだ心臓バクバクいってるよ。


「チュン」


 ん?


 雀の鳴き声がしたな。多分雷切だろう。


 俺はガバッとベッドから跳ね起きて雷切を探す。どこだ?


「チュン」

「そこか!ってそこかよ!」


 某ロボットアニメのニューなタイプのマネして雷切の声のした場所に目を向ければ、そこは俺の目の前で着地した畳まれた服。


 これお前の仕業かよ。


 魔法ですらなかったわ。いや、雀が服を運んでくるのも十分ファンタジーなんだけどさ。

 たださすがの俺でもこれだけビビらせられるとちょっと腹が立った。プチギレです。なのでちょっとお説教してお灸を据えようと思います。


 俺は頬を膨らませて腕を組み……胸が当たって色々な意味でちょっと組みにくいな。ってそれは今はいいや。

 とにかく無理やり腕を組み、怒ってますって顔で雷切が出てくるのを待つ。

 目の前では生地の下がモコモコと動き、やがて服の下から雷切がひょっこりはん。キョロキョロして俺を見つけると。


「チュン」


 翼を広げて嬉しそうにひと鳴きした。


「くっ」


 かわいい。


 なんだこのかわいさ。反則だろ。おこが秒で光の彼方だわ。

 てことで些細な怒りも無事かわいいで上書きされたところで、改めて着替えるか。って……


「なんだこれ?」


 畳まれた着替えの一番上には飾り気のない封筒?便箋?が一つ。


「手紙?」


 それを手に取って表裏を見る。特に何も書いてないな。


「?」


 俺宛てへの手紙かな?雷切に託したんだろうか。

 だとしたら可能性が一番高いのはあの裸(ゲフンゲフン)……神様だよな。あんな別れ方したわけだし。

 ただその時一緒にいたエルメさんって可能性もあれば、テレサさんや天王寺さんから何かしらの相談や秘密の話の可能性もなくはない……のかな。


 ま、どれにしたって雷切が持ってきたってことは、俺宛てで間違いはないはず。とにかく開けてみるか。

 幸いというかなんというか、封はされてなかったので、簡単に中の手紙が出てきた。

 んーなになに?


「ごめん、伝え忘れがあったので、それを伝えるためにこの手紙を雷切に託したんだな」


 やっぱあの神様か。伝え忘れって去り際のあれのことだよな。

 結局あれがなんだったのか気にはなってた俺は、まずは読み進めてみる。


「プレゼントしたものだけど、全部空間倉庫に入れておいたから確認して欲しいんだな」


 あーそういえばどう受けとるかって聞いてなかったな。

 ってことで空間倉庫召喚。

 で、出てきた見た目リュックサックをベッドの上であぐらをかいて抱え、開けて中を確認。


「……ないな」


 中には昨日入れたでっかいサイ(仮)がすごい存在感を放っているだけだった。

 いや、マジで存在感すごいよなこれ。

 って今はそれは別に関係ないからおいといて。


 まさか入れ忘れた?


 いや、あんな手紙までよこして忘れるっていうのはさすがに考えにくい。

 ん?あれ?これ端っこに仕切りがある?ってことはここにもスペースが〜……お、開いた。ってバニースーツと筆箱、スケッチブックは見つけたけどお茶がないな。


「チュン」

「ん?」


 雷切がリュック突いてる。その部分って。


「あー外のポケットか」


 なるほど、雷切はそれが言いたかったのか。

 

「ありがと雷切」

「チュン」


 雷切は賢いな。多分今俺が探してたのも察しての行動だろう。


 そういえば、雷切って一体何者なんだろ?


 神様に遣わされた俺のボディーガードってのと、見かけによらず超強いっていうのは分かったんだ。けど結局正体はわかってないんだよね。

 雀なのか神様の使徒なのか。言葉は理解してるようだし、自分の考えをしっかりもって行動してる感もあるから知能は間違いなく高い。ちょっぴり欲望に忠実なとことかご愛嬌な部分もあるけど。


「チュン?」

「くっ、かわいい」


 この「なに?」って感じの首を傾げるポーズが本当にあざとい!でもかわいい!この仕草に早くも何回流されたか。


「チュン、チュン」

「っと、そうだそうだ」


 雷切が繰り返しリュックのポケットの部分を突くのを見て、そういえば俺は今お茶を探してたのを思い出した。

 雷切の正体の考察はとりあえず後回し。

 てことで雷切が教えてくれたポケット部分を開けてみる。何かあるな。これがお茶?

 とにかく取り出してみた。


 出てきたのは瓶詰めされたちょっとお高そうな焼きたらこだった。


 いやなんでだよ!?

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それ絶対うまいやつだろ!?~死ぬ間際におにぎり食べたいって願ったら、TSしておにぎり作る能力つけらて異世界へ放り込まれました~ 茜空 @hikarigoke

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