第6話 人がおったのじゃ
ふくが目を覚ますとヴォルフに顔をペロっと舐められる。
もちろんそのお返しにヴォルフの鼻に爪を立てて反撃する。
「痛い痛い痛い痛い!な……なんでそんなに怒るんだよぅ……。」
「おなごの顔を舐めるとは良い度胸じゃの。失礼にもほどがあるわ!」
「失礼って……。狼は親愛の証で舐めたりすることあるんだよ?」
「それは……本当に貴様たちの作法なのかの……?」
ヴォルフは自信満々で頷く。
こういう時のヴォルフは噓をつくことはない。
段々とふくはヴォルフの扱いが分かってきたようで、腰に手を当ててため息をつく。
「は!?肉はどうなったのじゃ!?」
「大丈夫。壊れないくらいには冷やしたから、まだ食べられるよ!すごいでしょ!」
褒めてもらいたい、そんな表情をしたヴォルフを見て、一瞬胸が高まるがふくは勘違いだと思うことにして、次の課題に目を向ける。
「……しかし、どう調理しようかの……。わしは料理を作ったことがないのじゃ。いつも付き人に作らせておったから……。」
「集落に持って行って、聞いてみたらいいんじゃないの?」
「わし以外にも人間がおるのか!?」
「うん。数は少ないけど。」
「なら早く言わんか!早く肉を持ってそこに行くのじゃ!」
ふくは跳び起きて魔力を使って肉を集める。
三度の魔法の行使により、使い勝手が分かり、大雑把ではあるが重量物を持ち上げるまで可能になった。
いそいそと準備をするふくを見てヴォルフは耳を畳み、眉が下がっていた。
そのようなことを気にも留めず、ヴォルフの背中に肉を乗せるとふくもヴォルフの背中に跨る。
「さあ、行くのじゃ!」
「わ、わかったよ……。」
いつものように元気のない声で返事をすると、渋々歩き始める。
先住民の居るとされている集落まで歩みを進めるのであった。
§
お腹を空かせて、腹の虫を鳴らしながら進んでいくと、石造りの建物が見え始めた。
ふくはその光景を目にすると、目を輝かせてヴォルフの上から眺める。
そして、遠く離れて小さいが、ヒトの姿も確認でき、ますますテンションが上がっていった。
「ぼるふ!人じゃ!人がおる!やっとわしと同じような人に出会えるとはの……。」
「うん……そうだね……。」
「なんじゃ、いつものような活気がないの。疲れたのか?」
「そういうんじゃないけど……。」
ヴォルフの元気がない事に違和感を感じたが、同じ人間と話せるという事の好奇心が勝り、放っておく事にした。
そのまま街道のようなものを進んでいくと簡素な塀に囲まれた集落に到着する。
門の前には二人のヒトが立っており、虎の見た目をした者と犬の見た目をした者が立っていた。
ふくとヴォルフの姿を確認すると槍を構える。
「そこの者!止まれ!ここは許可なく入られる所ではない!」
「わしはふくと言うものじゃ。先日この洞窟に堕ちたのじゃが、知恵を貸してもらいたい。できるかの?」
「地上から堕ちた者か……!貴様がこの村に害なす者ではないと証明できるか?」
「知恵を貸してくれるのであれば、 このケダモノの肉を分けてやろう。」
そう言って目の前に三メートル四方の肉塊をドシンと置く。
その量に門番の二人は思わずジュルリと口を鳴らす。
「こ、これを貰えるのか……!?」
「勿論じゃ。わしは嘘をつかん。」
腕を組んでフンっと鼻を鳴らすと、門番の二人は向き合って話す。
「どうする……?魔獣の肉をあれだけ持って来れるヒトって殆どいないよな……。」
「実力があるなら村にいて欲しいよね……。乳大きいし、美人さんだしね……。」
「確かに……でも、なんで裸なんだ――って、下にいるのは氷狼族……!しかも、邪神ヴォルフじゃないか!?」
二人はヴォルフの姿を認識すると槍を再び構える。
「ふくさん!その狼から離れるのです!食べられてしまいます!」
「直ぐに追い払って匿いますので安心してください!」
「ま、待て。待つのじゃ!ぼるふはわしを助けてくれたのじゃ!悪い狼じゃないのじゃ!」
「心を操られているかもしれない!直ぐに助けに行くぞ!」
門番の二人は槍を構えてヴォルフに向かって走る。
ふくは状況が読めなかったが、放心状態のヴォルフの尻を叩き一喝する。
「ぼるふ!肉は置いて逃げるのじゃ!文句は言わんから先ほどの速さで駆けるのじゃ!」
「あ……う、うん……。」
ヴォルフはふくの言う通り目にも止まらない速さでその場を離れた。
集落から離れ、追手が来ない場所まで走るとふくに止められる。
ふくはヴォルフから降りるとヨロヨロと歩き出す。
その後ろをヴォルフはついていかなかった。
一歩も歩かないヴォルフを見て腰に手を当ててヴォルフの目の前に立つ。
「いつまで悄気ておる!お前らしくないっ!」
「だ、だって……オレのせいで肉は食べられないし、ニンゲンと話せなくなったし……。」
「そんなものどうでも良いのじゃ。わしはお前に助けられた身じゃ。それだけでなく、知恵も貸してもらっとる。あやつらがお前と敵対するなら、わしはお前の味方じゃ。」
「ふく……。ありがとう……。」
「しかしのぅ……流石に腹が減ったのじゃ……。もう、動けぬ……。」
お腹を抱えて丸くなって倒れるふくを見て、ヴォルフは一瞬姿を消したと思うと、小型の魔獣をふくの目の前に置く。
先ほどまで生きていたであろう新鮮な肉である。
それを自慢の牙で引きちぎり、口に頬張り、ふくの口にねじ込む。
最初のうちは拒んでいたが、背に腹は変えられなくなったのか、しっかりと咀嚼する。
ゴクンと飲み込むと、ふくは一言告げる。
「やはり生は美味しくないの……。」
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