第5話 風の魔法なのじゃ
「元素の魔法とはなんじゃ?」
「ええっと……四大元素の事で、火、土、風、水を使った魔法のことなんだよ。人々に知恵を与えたとされる何かの神がどうのこうのって、そんな感じ。」
「さっぱりわからん。じゃが、風の刃というのは鎌鼬(かまいたち)のことじゃな。しかし、あれはイタチという妖怪のはずじゃが……。まあよい。詠唱……じゃの……。風に目的を与えてやれば……。」
「詠唱がよく分からないけど、魔法は『どんなもの』を呼び、『範囲』を決めて、『どの形』にして、『何をさせる』のかを決めていれば大体の魔法は上手くいくって聴いたことがあるよ。」
「お前の魔法ならどんな指示を与えておるのじゃ?」
ヴォルフはそう訊ねられ首を傾げて考える。
彼は直感とセンスで魔法を使用していたということもあり、説明が難しく感じていた。
しかも、それをふくに説明するには分かりやすく言わなければならないという縛りも付いて。
「たしか……『全ての動きを止める力よ、我の力に包まれ、その身に刻む時を止めよ。』だったはず……。最初の方くらいしか詠唱?なんてしなかったし、大体のやつは『止まれ。』で凍らせられるし……。詠唱はいるの?」
「……ふむ。やはりお前の魔法は動きを止めたりする魔法なのじゃな。それにしても……長い呪文じゃな……。風に命令するには……。想像できんの……。」
「そりゃあ元素魔法は使えるだけで相当な実力者だよ?付与魔法なんてありきたりな魔法とは違ってイメージするのは困難だし、詳細にイメージできるとその分威力は底上げして、魔力のロスが少ない。この世界でも何匹かしか使えないもんだよ。」
目を閉じて説明に集中するヴォルフを見てふくは対抗心に芽生えていた。
この世界の住人でも使い手に限られる元素魔法を使いこなし、頂点に立ちたいと。
彼女は元々負けず嫌いで、自分の立場を上にするために人間時代はどんな手段を使っていた。
それに、頂点に立った時は足元を掬われないように、貪欲に知識や知恵を貪っていた。
そうして生活を、立場を守ってきた。
それも裏切りによって崩されてしまったのだが、今となってはどうでもよかった。
新たな目標として元素魔法を習得することになった。
「……まずは風でも吹かせてみようかの。魔力を練って……目的を与える……。『風よ……我を包み……埃を振り払え……。』」
詠唱が終わるとふくの周りに風が巻き起こり、全身の体毛が風で逆立つ。
たったそれだけではあったが、ふくは元素魔法の風を使ってみせた。
それを見たヴォルフは驚きのあまり空いた口が塞がらなかった。
「どうじゃ?わしにも出来たようじゃ……。なんじゃ、アホみたいな顔をしおって。」
「い、いや……元素魔法ってそう簡単に使えないもんなんだけど……。やっぱりふくは凄いな!オレが惚れただけはある!」
「やかましい、アホ犬め。お前が惚れたおかげで出来たのではない。わしの実力じゃ。」
「ええ……アドバイスしたのオレなのに……。でもそんなふくが素敵だなっ!」
一人で舞い上がっているヴォルフを尻目に腕を組んで次の課題を考える。
(風を巻き起こすことは出来たのじゃが、刃にするとはどういう事じゃ……?)
ふくの居た世界と時代では風圧力や空気の構成などは認知できていない。
それは決して認知する気がないというわけではなく、電気やガス、水道などのインフラもなく、便利な機械や自動車もない全てがアナログだったごろの時代である。
そのため、この世界に来ても地上にいたころの生活とはほとんど変わらず生活できていた。
魔法は地上にはない物であり、いくら悩んでも答えが出ないため、心底嫌そうな顔をしてヴォルフに訊ねる。
「クソ犬。風とは刃に変える方法はあるのか?わしの居ったところじゃ、風が刃になることはないのじゃ。」
「んー……確か、空気を高密度に圧縮して一か所から噴出させれば似たようなものができるのかな?」
「空気を?コウミツド?アッシュク?フンシュツ?何を言っておるのじゃ?きちんと説明するのじゃ。」
「ええっとね……この空気を魔力を使っていっぱい集めて、それをぎゅーって小さく押し込める。それに一か所だけ穴をあけて、押し固められた空気を出してあげる……みたいな?」
ヴォルフは前脚を使い、非常に書きにくそうになりながらもふくに理解できるよう地面に絵を描いていく。
その絵を見て魔力を練り上げていく。
頭の中でヴォルフの説明を反芻し、詠唱の言葉を紡ぎだしていく。
練り上げた魔力はふくから漏れ始めると、目を見開き、祈るように手を組む。
「『大気よ、寄り集まり一つとなりて、限界まで押し込めよ。そして、溢れ出さんその体躯を駆け出し、すべてを切り刻め。』」
詠唱が終わり、手を魔獣の死体にめがけて振り下ろす。
風の刃が死体を切り刻み、肉や血、毛をまき散らしながら刻んでいく。
刻まれた肉片はボドボドと音を立てて地面に落ちていく。
それでも一片はふくの身体よりも二倍の大きさだが、巨体のままでは刃も通らなかった外皮を取り除くことができ、ふくは満足そうな顔をして倒れた。
地面にぶつかる前にヴォルフは尻尾でふくを捕まえ、顔の近くに持っていく。
魔力を使い切り、眠ったふくの顔を見て優しそうな顔をする。
「本当にふくは凄いよ……。元素魔法をここまで使いこなすなんて。このまま行けば、本当に一番の使い手になれるかもしれないね……。」
ヴォルフは刻まれた肉が傷まないようにその空間だけ氷点下の気温にする。
地面に霜が降り、空気はその水分を凍らせ、きらきらと輝く。
それを見たヴォルフは再びふくを見つめて、起きるのを待っていたのだった。
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