第40話
***
わたしは、文化祭のあと、期日から少し遅れて進路希望の用紙を提出した。
そのことで、進路指導の先生から呼び出しをもらった。
「あなたの進路希望を拝見しました。
呼び出された理由は分かりますか?」
わたしは、はい、と答え、志望する動機を続けた。
「三角冬夕さんと同じ大学を志望したのは、もちろん彼女と一緒に過ごしたいという理由があります。ブランドも立ち上げたので、それも続けたい。
ただ、これも三角さんの影響と言ってしまえば、確かにそうなのですが、リベラルアーツについて、もっと深く学びたいと考えるようになったのも事実です。なんというか……、教養というものにとても魅力的に感じています。それを学ぶためには英語力が足りないことも自覚しています。
両親に許可をもらって、オンラインの英語指導を受講しはじめています。母の知り合いのネイティブスピーカー、カナダ人の翻訳家の方なので、ほぼ英語でのやり取りです。とても難しく感じていますが、やりがいがあります」
「そう。あなたの学力なら、確かにまだ難しいところではあると思います。でも、やめなさいというほど無理な感じでもない。そのように努力をしているのなら、いいでしょう。わたしも応援します。
受験に当たって分からないことがあったらなんでも問い合わせてください」
わたしは冬夕と一緒にいたい。そして、たぶん、冬夕は支えられることが必要だと思う。なんでもひとりでできちゃうけれど、その分、人に頼るのが下手だ。彼女は、そのことに気づいていない。
だったら、わたしがすればいいんだよ。わたし、頼ること、どっちかと言えば得意だし、これあげるって言われれば、もらっちゃうタイプ。ああいう天才は、わたしみたいなのがいないとダメでしょ。
***
ふたりきりのアトリエで、わたしたちは、それぞれミシンに向かっている。
ダダダ……、という音が交差して響いている。
バチン、と糸の切れる音がする。片方のミシンの音がやむ。
「雪綺、できた」
「冬夕、はやい」
わたしもミシンを止める。冬夕が得意げな顔をして、掲げる。
「あれ、ブラじゃないじゃん。あ! ペナント!」
じゃーん、と言って冬夕は三角形の布を広げる。
「ちょっとバイアスでとっちゃったけど、いい感じの二等辺三角形になったよ。あとは刺繍ね」
わたしたちは、ブラジャーひとつひとつに刺繍をしている。その人の人生がまばゆい光を放てるように願って、それぞれ単語を選んでいる。
Proudly
Sparkle
Shooting
冬夕が刺繍糸を取り、縫いはじめる。
わたしたちのブランド名。
スクープされる方、おっぱいのことを大事にしたいの
Scoop Stripe
わたしたちは、新しい旗を掲げ、もっと広い海に漕ぎ出すのだ。
<スクープ・ストライプ Ⅳ. Scoop Stripe! おわり>
スクープ・ストライプ 石川葉 @tecona
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