第39話

 アトリエを自宅に移したことで、多くの同級生に惜しまれた。

 あー、早く注文しておけばよかった、と何度も言われた。別に今でも受け付けるよ、と思うし、そう言うけれど、ちょっと距離が開くと頼みにくいみたい。それってなんだか不思議なこと。もちろん社交辞令ってやつも考慮するけれど。

 そんな中、本当に残念がっている人間もいる。谷メイもそうだけれど、杉本さとみもそのひとりだ。

「え、新作、頼みたいなあって思っていたんだ。お小遣いも貯めたんだよ。え? あ、大丈夫なの。それなら、ぜひぜひ。だって、スプスプのブラと市販のじゃフィット感が全然違うんだもん」

 わたしは、市販のブラでも、ちゃんとフィッテイングすれば心地よくつけることができることを教える。

「それは、やってみるけど。スプスプのブラのファンになっちゃったの! フィルグラのはほぼ医療用でしょ。だから、忙しくて迷惑かな、とも思っていたんだけれど、いいんだね! そしたらまた注文する!」

 一般用のブラもしっかり作らなくちゃいけないな。


 そうそう、文化祭と前後して、運動部では新人戦が行われていた。陸上部の小笠原まどかは、県大会で入賞し表彰されていた。

 家庭科室から引っ越しする準備をしている時、彼女はふらっと現れた。

「まどかちゃん、おめでとう。すごいね」

「うん。ふたりのおかげだよ。スプスプのブラ、まるで着けていないみたいなのに、しっかりガードしてくれる感じがあるんだよね。すごく不思議な感覚だった。また、あのブラとショーツを着けて走るね。

 それと、」

 小笠原は、少しためらってから話し始める。

「冬夕ちゃんの言ったこと気になって。お母さんに相談したの。生理のこと。お母さんも気になっていたのは確かだから、一緒に婦人科にいってくれたのね。

 そこで聞いたのは、まだ生理が遅れているだけかもしれないから、もう少しだけ様子を見ましょうってことだったの。

 できれば、もっと早めに来院して欲しかったけど、って注意されたけれど。まあ、それはお母さんに向けての言葉ではあったけれどね。

 わたしとしては、やっぱり、まだ来ないで欲しいっていう気持ちは強いんだ。来年の春まではね」

 冬夕はその報告を聞いて、少しほっとしたようだった。小笠原が去ったあとで、こう口を開いた。

「難しい病気じゃなければ、いいと思っていたの。生殖器のことは、分からないし聞かないけれど。でも、まずは受診できたことが大きいかな。複雑な事情だったら話してくれなかったと思うから、単なる生理の遅れ、とわたしたちは受け止めよう」

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