7. 悠悟と舞菜
第44話
日常というものは、実際に生活している分にはなんとも思わないことが多い。けれども、突然終わりを告げられるとその日常がどれだけ大事で、どれだけ楽しくて、どれだけかけがえのないものだったかを理解できる。
俺が職場に復帰してからは、多忙な日々に追われていた。
自分の体調を考慮して休職していた一週間で仕事がたまりにたまっていた。
毎日を忙しく過ごしていたが、とても充実しているように感じていた。
仕事のミスも減り、上司から大きな仕事を託してもらえるようになった。俺のことをよく見ていてくれて、良くない時には声をかけてくれて、上手くいっている時には色々と任せてくれる。いい人に出会えたと心から思った。
ただ、俺の元へ戻ってきた日常には一つピースが足りていなかった。
その抜け落ちたピースのせいで、俺の日常はどこかそわそわした気持ちがまとわりついていた。仕事に支障が出るようなものではなかったが、俺が頻繁に自分の携帯電話を確認していた様を職場の人は不思議に思っていたようだ。
誰もが分かるように俺の状況を例えるなら、幼い子供がクリスマスイブにサンタがやってくるのが楽しみでそわそわしているようなところだろう。
俺はそのピースが戻ってくるのを心待ちにしていた————————。
そして、その時はやってきた。
ある日、俺は仕事でパソコンとにらめっこしていた。まあ、俺はほとんどの時間をパソコン作業に費やしているから、いつもと変わらない日常の一端だ。
突然、俺の携帯電話が鳴り響いた。
画面には『福山由梨』と表示されていた。
「悠悟くん。舞菜が目を覚ましたよ」
電話をとると由梨さんの簡潔な言葉が俺の耳に届く。
その言葉を本当に待っていた。
俺は急いで上司に休みを取る旨を伝えて、会社から飛び出す。
ついに、ついにその時が来たんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます