第37話


 夢を見ていた。


 懐かしい夢だ。


 私は制服の上に防寒性能が高いコートに身包んでいた。


 周りを見渡すと、おしゃれな建物が並んでいた。背の高いビルも立ち並んでいることから、都会に来ているのだと確信した。


 高校時代に都会に繰り出す学校行事は、私が経験したのは秋のお台場への遠足しかなかった。つまり、ここはお台場だ。


 確かに度々、冷たい風が私の頬を突き刺す。これは、海からの浜風の影響だろう。私の季節外れの寒さを見かねた上着選びは正解だったようだ。


 隣には私が愛してやまない彼がいた。彼は上着もセーターも着ることなく制服のみで、私とは対照的にいかにも寒そうな恰好をしている。案の定、風が吹くたびに体が震えているように見える。そんな姿を見ると誰でも同じように聞くだろう。


「ねえ、大丈夫? 寒くない?」

「××××××。××××××」


 彼は強がった素振りを見せる。

 彼はいつ何時も私に弱音を絶対に吐かない。別に見栄を張らずに、少しくらいは私のことを頼ってくれてもいいのにと思うのだけど、彼はそれが嫌みたいだった。ただ、そんな弱みを見せまいと頑張っている彼が好きだった………………。


 私はに彼に出来ることを探した。色々と思案を巡らせるうちに一つ思い出した。そういえば、使い捨てカイロの余りがバックに入っていたはずだ。そうして、バックからカイロを取り出し、彼に渡した。開けたばかりだからまだ暖かくないだろうけど、少し時間が経てば寒さをしのぐ戦力になってくれるだろう。


 私がカイロを渡そうとすると、彼はもちろん遠慮する。でも、私が無理やり渡すとに嬉しそうに口を開く。


「××××、×××××」


 その言葉に私は少し気恥ずかしさを感じた。


 でも、今日は彼との時間が一日中続くのだから、そんなことで恥ずかしがってはいられない。もっと、アピールをしていかないといけない。大切な一言をきちんと伝えるタイミングを何とかして作りたい。


 私は胸の内で彼に伝えたい言葉を繰り返し唱える。


 それは以前から伝えようとした『愛』の言葉。私の気持ちの全てを表した『愛』の言葉。彼と私を繋げる『愛』の言葉。

 大事に作り上げたその言葉を心の中で繰り返し、繰り返し、繰り返し………………。


 そして、あれ………………私は? 何をしたんだっけ?


 周りを見ても誰もいない。何もない。


 私が今まで見ていた夢は、いつのまにか砂嵐に代わっていた


 私は確かに、さっきまで夢を見ていたのに………………。


 そういえば今、何か言わなくちゃいけないことがあったような………、伝えなくちゃいけないことがあったような………何かが抜け落ちたような感覚が私を襲ってくる。


 大事なこと………………大切なことを忘れている、そんな気がしてならなかった。


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