第33話
観覧車を降りた後、俺と舞菜は特に何も話すことなく、病院の前までやってきた。
ここに来るまでの道で舞菜は美術館の最後と同じ様にどこか遠くを見ているような、物憂げな表情をしていた。
その表情に俺はどことなく違和感というか、この先の良くない出来事を暗示しているような不思議な感覚に陥った。
そしてその俺が感じ取った感覚は現実のもとなった。
舞菜は病院のロビーへと続く自動ドアの前で立ちどまり、俺の方へ振り返った。
「今日はありがとうね。楽しかった」
「ああ。また、一緒に」
「あのね」
舞菜は俺の言葉を途中で遮る。
「一緒に外に行くのはこれで最後にしよう」
「え??」
突然の言葉に俺は困惑する。そして、さらに舞菜の言葉は続く。
「それだけじゃない。面会にも来ないでほしいの」
「そ、それはっ」
あまりにも衝撃的過ぎて、気が動転しそうになる。
いや、自分のことを冷静に見ることが出来ない時点で、既に動転しているのかもしれない。
「それじゃあね」
「ちょっ、ちょっと! 舞菜さん!!」
少し語尾が強くなった俺の言葉で舞菜は立ちどまる。
「ど、どうして突然そんなことを言い出すのさ?」
俺は理由を……、舞菜に拒絶される理由を知りたかった。しかし…………。
「ごめんね」
俺の問いに関する答えではなく、謝罪の言葉が舞菜から与えられた。
その一言にはどれほどの舞菜の感情が詰まっているのか、そんなことは頭が混乱している俺には到底考えることのできないものだった。
「忘れないでいてね」
舞菜はそう小さくつぶやいて、ロビーの中へ入っていった。
俺を突き放し、置き去りにしたまま。
冷たい風がコートを貫いていることなんて気にすることなんて出来なかった。
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