第32話

 会場を出た後、俺たちは近くにある観覧車に乗っていた。舞菜が選んだスポットの二つ目がこれだったらしい。


 観覧車に乗って少し時が経ったタイミングで、舞菜は少し申し訳なさそうな顔をして俺に話しかけた。


「なんか、はしゃぎすぎちゃってごめんね」

「いいや、俺も楽しかったし、写真もたくさん撮れたんだろ」

「うん。悠悟くんにも送るね」


 舞菜は携帯を触って俺に写真を送信する。


「ありがとう。写真ならいつだって見返せるからな」


 俺は写真を確認しながら言った。


「————悠悟くん、私の病気の話、聞いたんでしょ」


 その言葉に俺は驚いて顔を上げる。すると、舞菜が俺の目を見つめていることに気づく。その綺麗な目を見ると吸い込まれるような心地がした。


 俺は何て言うのが正解なのか少し考えて、簡潔に答える。


「ああ。由梨さんから聞いた」

「そう——————。私も色々と迷惑かけたみたいだし、元を言うと言わなかった私のせいだし、ホントごめんね」

「そんなっ、謝るなよ」


 俺の言葉を最後にゴンドラの中に少しの間、静寂が訪れた。舞菜は頂上を過ぎたあたりで、外を見た。


「二人でこうやって見た景色を、悠悟くんは忘れないでくれる?」

「もちろんだ」


 俺はすぐに言い切る。いくら時間が経とうとも忘れないという、根拠のない自信は俺にそうさせた。

 それから、俺は情動的に言葉をつづけた。


「再会できたあの病室も、この前の文化祭も、一緒に見た映画も、今日のお台場も、舞菜さんと一緒だったすべての時間を————、俺は忘れないよ」

「そう………………。ありがとう」


 また、そっけなく返事した舞菜に、俺は何も言えないまま観覧車を後にした。


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