第30話


 舞菜とやってきたのは光と映像を使ったイベントをしている施設だった。


「ここはね、若者に人気で、映えスポットがたくさんあるんだって」

「ば、映えスポットか………」


 俺は文化祭の時の心臓に悪い映えスポットを思い出す。

 あんなタイプのスポットはないといいなと心の中で思った。


 舞菜はそんな俺を気にすることもなく、一歩前に出て、俺の方を向いた。


「たくさん写真撮ろうね」


 舞菜は俺に笑顔を向けながらそう言って、入場口の扉を開いた。


「お、おう…………」


 そんなかわいい仕草をされたら反応に困るのだが………………。

 そう心の中で思いながら、俺は舞菜の後に続いた。


 入場後、俺たちは会場のスタッフからの説明を受け、順路の通りに進んでいった。

 進んだ先は暗くて何も見えない部屋だった。


「うわ、真っ暗! 悠悟くん大丈夫? 隣にいる?」

「そんなに心配すんな。隣にいるから、大丈夫だよ」


 舞菜の心配性な性格は学生時代から変わらないところだ。

 その上、他人のことを心配するくせに、舞菜本人のことは心配しないのだから困ったものだ。


「そっかぁ。よかったぁ~」


 目に見えないけれども、舞菜は胸をなでおろしているように聞こえた。

 そういえば、この前の文化祭のお化け屋敷もかなり怖がっていたから、暗い部屋が苦手なのかもしれない。


 俺たちが騒いでいるうちにと誰かの笑い声が聞こえてきた。スピーカーから流れている声だ。

 そして部屋の中に一筋の光が現れる。


 その光は部屋の外につながる通路へ続いていく。光が先へと導いてくれているかのようだ。

 俺たちはその光を追うように進んでいく。


「なんだろ? 妖精さんでもいるのかな?」

「まあ、それに近い設定の何かだろうな」


 さすがに妖精のようなファンタジーな生き物が存在しているわけがない。そう思って言ったのだが、舞菜の気に召さなかったようだ。


「むぅ。悠悟くんは夢がないな~」


 そういって舞菜は頬を膨らませる。不意に舞菜がしてきたこの仕草は、俺の好みにド・ストライクだったので、返事に脳みそが使えないまま、適当な言葉を返す。


「そんなことないさ~」

「はいはいそうですね~」


 そう言って舞菜は俺の言葉を聞き流す。

 舞菜が面倒くさくなったら返事が適当になってくる癖も昔から変わっていない所だ。その言葉を何度聞いたことか。


 俺たちはその後、周りに集中してあまり話すことなく先に進んでいった。

 そして、その先に現れたのは、


「うわぁ、滝だあぁ。綺麗~」


 光で形を作られた滝は、実際の物とは違った神秘的な雰囲気をまとっていて、ついつい見入ってしまう。


「ねえ、ねえ、写真撮ろうよ」


 舞菜は美しい風景に入り込んでいる俺とは対照的にテンションが上がっていて、子供のようにはしゃいでいる。


 そんな舞菜は俺の手をつかんできた。俺は突然のことで、胸が弾んだ。この前の文化祭の時のあれに比べたら、と自分に言い聞かせて必死に落ち着かせる。


 舞菜は俺の気持ちなど気にすることなく手を引いて、滝の真ん前にやってきた。そうして近くにいた人にカメラを持ってもらって、二人で並んだ。


「ほらほら二人とも近くに寄って笑って~」


 カメラを構えてくれるおばさんは、俺たちにそうアドバイスをしてくる。

 舞菜は俺に一歩近づいて、耳もとで囁いた。


「悠悟くん、笑顔だよ、笑顔」

「いや、舞菜さんも言われてるよ」

「私は全力で笑顔してるし」


 俺はなんだか噓くさく聞こえるわざとらしいニュアンスを感じた。


「ホントかぁ?」

「ホントだよっ」

「はい撮るよぉ~」


 そう言っておばさんはシャッターを押した。


「ありがとうございます~」


 そう言って、舞菜はおばさんに足早に駆け寄った。そして写真を確認した舞菜は俺のもとに戻ってきた。


「いい笑顔できてるじゃん。写真、後で送るね」

「よろしく頼む」

「じゃあ、時間もないんだから、どんどん行こ」

「はいはい」


 そう言って、舞菜は再び俺の手を引いて順路を進んでいった。本当は俺の方が手を引くべきなのかもしれないと内心感じつつも、舞菜に身を任せて歩いて行った。


 この関係、距離感が心地よく感じた。


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