4. 「忘れないでいてね」
第29話
気温が徐々に下がってきて、秋の雰囲気も終わりつつある十一月。
俺と舞菜はお台場にやってきていた。
「久しぶりに外に出たけど、かなり寒くなったね」
「そうだな。映画以来だから、そこから比べたら結構気温下がっているからな」
寒がる様子を見せる舞菜は、ベンチコートに身を包み、他の装備も充実しており、俺からしたら防寒対策完璧なようにしか見えないが、病室こもりが続いていたから寒さに慣れていないのかも知れない。
「外出の許可がでてよかったな」
「まあ、こっちの病院に転院するついでに来ているだけだから、あまり時間は取れないけどね」
未だ舞菜の記憶は少しずつ消えていて、改善の余地が見えないどころか、記憶が消えていくスピードが早くなっているということで、入院する病院を変えることになった。
転院先であるダイバーシティトウキョウホスピタルは、お台場の近くにある病院であり、舞菜曰く、設備が今までの所とは段違いだそうだ。
病院名は少々ダサさを隠せないところがあるなというのが俺の印象だ。
そして舞菜が病院に入るのは今日の午後で、午前中は時間を自由に使えるということで、由梨さんが融通をきかして、俺との時間を作ってくれた。
「そうは言っても、半日あれば十分遊び尽くせるんじゃないか?」
「甘いね、悠悟くん」
そう言って、舞菜は人差し指を振った。
「お台場にはお出かけスポットがたくさんあるんだよ。私、滅多に外に出れないけど、そういう情報はいつも調べてノートに書いてまとめてるんだ。今日だって、たくさん良いところがある中で、頑張って二つに絞ったんだから」
「そ、そうなのか」
「そうなんだよ! だから……今日は悠悟くんとお台場に来れてすごく嬉しい」
俺は熱を込めて語る舞菜の圧に押される。
その一方で、舞菜の『嬉しい』という言葉が聞けて、俺の方も幸せな気持ちになる。
「——そうか。まあ、時間は短いけど全力で楽しもう」
「そうだね! じゃあ、行こうー!」
そうして、俺と舞菜の半日デートが始まる。
目的地へずんずんと進んでいく舞菜をよそに、俺は冷たく皮膚を貫くような浜風に体を震わせた。
俺は大して防寒性能がいいわけではないコートに身を包んでいた。
もっとあったかい格好してこればよかったなあ。
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