第27話
舞菜が落ち着くまでそれなりの時間を要するだろう。
そう考えた俺は、さすがにいつまでも映画館の座席に座っているわけにいかないので、近くのファミレスに入って時間を過ごすことにした。
「だってさぁ~、あんなに離れても思いあっていた二人を最後の最後でえぇぇ」
ファミレスに入ったら感想を言い合いたいと思ったのだが、舞菜のマシンガントークが止まらなかった。
「そうだよな。だって、ずっとおもぃ」
「そう!! ずっと思い続けた二人はあのまま結ばれるべきだったんだよ。それなのにぃ、それなのにだよぉ」
「そうだな」
俺が入る余地はなさそうだった。俺がどんなことを言おうとしても、舞菜が食い気味で割り込んでくる。こっちの感想は舞菜が落ち着くまで諦めて、話を聞く方に徹する。
お互いに感情を共有できたところを見るに、舞菜のチョイスは最適だったのだと感じた。
二人で同じ気持ちになれることはとても素晴らしいことだと、映画から教えられた気がした。
それから、数十分。お冷の氷はすっかり溶けて、舞菜の興奮も落ち着いてきたところで、ファミレスを後にした。
「ねえ、時間はまだ少しあるんだし、ゲーセン寄らない? クレーンゲームやってみたい」
舞菜はファミレスを出てすぐのところにあるゲームセンターに食いついた。
「舞菜さんはクレーンゲームやったことないの?」
「そうだよ。面白いんでしょ! やろうよ!」
「少しだけだからな」
「やったね」
まるで小学生のようなはしゃぎっぷりだ。さっきまでの号泣が嘘のように元気を取り戻している。
あと、やけに舞菜が感受性豊かなのは、幼いころの記憶がないからなのだろうか。
全くもって根拠がないが、少し気になった。今度、由梨さんにでも聞いてみよう。
それからというものの、舞菜はお菓子が山積みになっているクレーンゲームに挑戦した。
何だかんだあって千円を使い果たしたころに、諦めがついたようだ。とったお菓子はゼロ。しょんぼりした表情が犬のようで何だか面白おかしくて仕方なかった。
それでも段々本当に悲しそうに見えてきてしまったので、俺も最初に見た時と変わっていない山積みのお菓子に対峙する。千円も使って変化がない事が疑問だが、俺は真剣にクレーンゲームに向き合った。
その結果、俺は大きな山を切り崩すことに成功した。見事に大量のお菓子を手にした。
しかし、落としたお菓子の箱を全部持ち帰ることは量的に不可能だったので、ゲームセンターにいる人たちに少しずつ渡すことになった。
そんなこと可能なのかを俺は驚いたが、舞菜がゲーセンの人に上手く計らってくれたようだ。
こういう交渉事は舞菜の得意とする分野のようで、高校時代からよく周りから頼られていた。もちろん、俺も頻繁に頼っていた。
そうして時間はあっという間に溶け、帰らなくてはならない時間になった。前回と同様、松山病院の最寄り駅まで俺は送っていった。
「悠悟くん、今日はありがと。デート、楽しかった」
不意に舞菜からデートという単語が出てきて、少しドギマギしてしまう。
「あ、ああ。また一緒に行こうな。舞菜さんの行きたいところがあったら、また教えて」
「うん。じゃあ悠悟くん、またね」
「ああ、また今度」
今でも名前を呼ばれると少しドキッとする。
そんなそぶりを見せないように必死に表情を取り繕いながら返事をした。
上手く答えられたかは分からないが、とても充実した時間を過ごせた気がした。
二人で同じものを見て、同じもので感動して、同じもので涙したこの日は、俺にとってかけがえのない日になった。
こんな日がずっと続けばいいなと心から思う。
毎日は難しくても、定期的に会うことが出来る。また、次もどこか行こうと約束した。
この時間はまだ続く。そのことが俺はとても嬉しかった。
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