3. She likes shaved ice.
第16話
八月がついに終わりを迎えた。それなのに異次元の暑さはいまだ健在で、外に出るのが億劫な日々が続いていた。
九月に入って初めの日曜日、俺は舞菜と一緒に我らが母校である都立松山高校の文化祭に訪れていた。
都立松山高校、通称松高の文化祭は例年九月の上旬に開催される。夏休みの間に全てのクラスが死ぬ気で準備を進め、この日に向けてありとあらゆる高校の人間があまたの仕事に没頭する。
かくいう俺も、受験勉強だとか関係なく三年間どのクラスでも馬車馬のように働かされまくったことはいい思い出だ。あいつらは舞菜には仕事を振らないくせに、俺には何でも押し付けてくるところが気に食わない。
だけども、その時の経験は少なからず今の仕事に役立っているようにも感じた。
文化祭の盛り上がりを予感させる立て看板がずらりと並ぶ、校門を入ってすぐのところで俺は舞菜と待ち合わせした。
とはいっても俺のほうが到着が遅くて、舞菜を待たせてしまっていた。
「遅れてごめん」
「全然大丈夫。今来たばっかだし」
本来、俺が言うはずだったことを舞菜に逆に言わせてしまった。
俺は会話を続けるために言葉を必死に考える。
「暑いのに外に連れ出して悪いな」
「全然大丈夫だよ。気にしないで」
俺は瞬時の熟考の末、舞菜の体調について考えないで約束してしまった謝罪の意を込めた言葉を舞菜に伝えた。瞬時の熟考という文言は矛盾しているが、自分の中ではそういう感覚だった。
けれども、彼女は別に気にすることなく言葉を返してきた。確かに暑そうなそぶりは見せていなかったから、本当に大丈夫なのか疑問になる。
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