第3話
はがきが届いてから約二か月後。七月中旬の土曜日。暑さが和らぐことを知らない夕方、俺は我らが都立松山高校第48回生の同窓会が行われる場所である、都心のホテルの宴会場にやって来ていた。
「別に、こんなところでやらなくてもいいんじゃないか?」
想像に反して、お高そうな装飾が施された大広間に、同じくお高そうな料理が並び、かなりの数の同級生が友人同士で談笑していた。
俺は休日にもかかわらず、上司からのお呼び出しを食らったせいで、会場に入るのが遅くなってしまった。とんだブラック企業だ。
おかげで、ほとんどの同級生が友人たちと話に花を咲かせていた。
「広すぎだろ。どこだよ俺のクラス」
俺は会場を見渡して呟いた。
大きな広間には三年次のクラス別にテーブルが並べており、俺がいた五組のテーブルは入り口から一番遠い場所に陣取っていた。
「七組まであったんだし、一番遠いところのテーブルは普通五組じゃねぇだろ」
俺は愚痴を吐き出しながらそのテーブルのもとへ歩いて行った。
歩きながら周りの様子を見る。やはり、六年もたてば雰囲気も変わるのだろう。高校時代は同級生全員の顔を名前は一致していたのにも関わらず、今は全くもって誰だか分からない同級生もいる。少しでもあの頃の残滓が残っていれば分かるかもしれないのだが……。
そんなことを考えている内に自分のクラスの元へたどり着いた。
最も遠いデーブルを割り当てられた我らが元五組は男と女で別れて集まっていた。三年生当時も俺のクラスは男女の仲が悪く、俺は学級委員として口げんかになる前によく仲裁に入っていた。
あのころと変わらない空気感の元クラスメイトたちを見て、なんだか懐かしく感じた。
「あっ、悠悟じゃ~ん」
元五組のクラスメイト達が俺に気づいて声をかけてくる。
この前、飲みに行った友達や仲は良かったけどなかなか会えなかった友達、関わりが多くなかったような奴もいて、俺は色んな人と様々な言葉を交わし合った。
やはり、旧友との会話は弾むものだ。時間がどんどん溶けていく。
「なんか、みんな変わったね」
俺はそうつぶやいた。他クラスの同級生と比べて接する機会が多かったからか、みんな高校生の頃の面影が残っていることが分かるが、社会人になっているだけあって、一人一人が大人になったような雰囲気が感じられた。それは、男たちだけじゃなくて、女性陣もそうだった。
そんな俺のつぶやきに対して皮肉めいた反応をしてきたヤツがいた。
「そう言う悠悟くんは変わってないねぇ~」
『おいおい、みんな変わってて、俺だけ変わってないみたいな言い方しないでくれよ〜』なんて言えることなく、笑ってごまかす。
周りの友達も一緒に笑いあう。みんなで馬鹿みたいに笑って過ごす時間が大切だったんだなと改めて感じる。
みんなが近況を語らいあっている中で、俺はふと周りを見渡して、お目当ての彼女がいないことに今更ながら気づいた。ほぼクラスメイト全員が集まっているのに彼女が来ないことはまずないはずだ。
そこで、彼女と仲が良かったという記憶がある、赤みがかった茶髪の女に近づき、話しかけた。
「
「……舞菜は来てないよ」
彼女が幼いころからの親友だと豪語していた
「そ、そうなんだ……、仕事か何かかな?」
俺の言葉に小笠原は俺を品定めするように見ると、それから気になる一言をこぼした。
「……舞菜は来れないんだ」
小笠原は少しうつむき、表情もなんだか暗く見えた。
その言葉を表面上の意味通りに捉えるなら、『彼女は仕事の予定などの外せない用事があるから来れないんだろう』と解釈するところだが、小笠原の表情を見る限り、そんな単純なことではない気がした。
「何か、あったのか? 福山に……」
俺のなんとなく言い放って言葉であったが、彼女には大きな一言だったようだった。
小笠原は俺の質問に対して何か言おうとしたが、少し考えてその言葉を引っ込めてしまった。
その姿を見かねた俺は、小笠原にさらに一言付け加えた。
「俺は、福山に会いたいんだ」
「………っ」
俺の言葉で小笠原は驚きと困惑が混ざり合ったような表情を見せた。
「おい、どうした?大丈夫か。」
突然、そんな顔を見せられると俺のほうが困るのだが、そういう問題じゃないのだろうか。
そんなことを考えている間に、彼女の顔はいつも通りに戻り、覚悟を決めたように話し出し、俺に一言伝えた。
「あまり大きな声で言いたくないんだけど。———舞菜は入院しているの。」
この言葉を小笠原がどんな気持ちで口にしたのか、その言葉によって再び関わりを持つことになった彼と彼女にどんな困難を与えるのか、この時の俺には理解できるはずもなかった。
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