君がいたアオハル
ナナシリア
君がいたアオハル
春夏秋冬。すべての季節に、君がいた。
今となってはいい思い出だ。どの季節にも、君がいない。
春、君と出逢って、君がちょっとずつ距離を詰めてくれて、嬉しかった。
夏、君は僕に好きだと伝えた。迷惑かもしれないけど、と笑う君に僕は困惑した。
秋、君と共に歩いた。僕に迷惑をかけまいと足を速める健気さに、惹かれた。
冬、君のことをようやく知った。僕が見ていた君は、ほんの一部に過ぎなくて、僕の知らない君は僕が思うよりずっと弱かった。
すべて知った時にはもう手遅れで、君がいられるのはあとほんの少しで――。
もっと早く知っていればなにかできたかもしれないという気持ちと、どれだけ早く知っていても避けられなかったという気持ちが同居する。
後悔しても仕方ない。過去は変わらない。
君のことを思い出す。
『アオハルって知ってる?』
『もしかして、小学生でも読める漢字すら読めないの?』
『違うちがう、そういう読み方があるの』
若者特有の読み方で、ごくわずかにニュアンスが違うとかなんとか。
僕はそういう文化に明るくないので、知らなかった。
『せいしゅんって読むより、ちょっと初々しくない?』
『なにが違うのかさっぱり』
『ほら、響きが違う』
小学生の屁理屈みたいな理屈で返されて沈黙する。
『で、なんでそれをここで持ち出したのさ』
ちょっと悔しかったので質問の方向性を変えてみる。
『君にせいしゅんは似合わない。どっちかっていうと、アオハルって感じ』
彼女の言葉に、少しは納得させられる部分もあった。
『まあまあ失礼だな』
『ごめんね』
彼女は深く反省しているわけではなさそうだったが、どうしても憎めなかった。
今から思い返してもせいしゅんという感じはしない。僕にせいしゅんなんてない。
ただ、彼女は確かに僕の日々にいた。
ふうっ、と深い息を吐く。もうやめよう、彼女のことを考えるのは。
君がいたアオハル ナナシリア @nanasi20090127
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