第29話

『本当に良かったのか? あの場所じゃ、店から結構遠いだろ。通うのも大変だぞ』


『良いのよ。あまり近い場所に住んでやきもち焼かれても困るから』


 焼き餅って何の事だ?

 近い方が便利だと思うけど・・・本人が良いって言うなら良いか。


 ★


 俺はバールとLEDライトを彼女に渡して森の近くを散策している。必要なのはホーンラビット1匹だけなので森の奥に行く必要は無い。

 20分ほど探すと1匹のホーンラビットを見つけた。


 俺はウサギという可愛らしい動物に対して、彼女の中の少女が目覚めて攻撃出来ない事を懸念していたが、彼女は一瞬の躊躇いもなくホーンラビットの頭部をブッ叩いた。次の瞬間ホーンラビットは完全に沈黙した。


 だがホーンラビットの体は消える事無く横たわったままだ。

 リリナは周りをキョロキョロしている。


『ファンファーレでも聞こえたか?』


『うん。なにあれ? 本当に異世界だったの?』


「鑑定!」


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 寅筑とらつく裏裏來 りりな 女 24歳 


 Lv.1


 体力 25/27 魔力 1/1


 筋力 23 知力 24 素早さ 22


 能力 なし


 称号 【来訪者】


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 ステータスは取得出来たようだ。称号も付いてる。

 だが、スキルは取得出来なかったようだ。


『デュオは更新されているかい?』


 デュオは自分がレベルアップしたら、その能力値も自動で更新されるのだ。俺も最初に気が付いた時には驚いたが、デュオ自身が測定器であり情報をメインサーバーに送信する役目を持っているなら有り得ない事でも無い、と思うようにした。


『なんか……ショボクない?』


『最初はそんなもんだよ。俺だって相当鍛えたんだから』


「鑑定!」


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 火色ひいろ 一一かずひと 男 36歳 


 Lv.61(NEXT 203/248)


 体力 365/366 魔力 241/242


 筋力 281 知力 226 素早さ 257


 能力 転移魔法【S】鑑定魔法【B】

    収納魔法【S】言語理解【S】


 称号 【来訪者】【社畜の魂】


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 レッサーウルフを730匹狩った結果だな。トンデモなく数値が伸びてる。地球なら人類最強の1人に入ってるかも知れない。


『とりあえず、リリナは言語理解のスキル無いから言葉を頑張って覚えてね』


『やっぱり、そうなるのかぁ。私英語も全く出来ないのになぁ……』


『レベルアップしたら知力も上がる。知力が高いと頭も良くなる、っぽい』


 ピリヨとリィズが計算を早く覚えたので、たぶんこの推測は正しいと思う。

 ただ、知力が影響するのは計算という論理思考だけで、言語や暗記には影響しないかも知れないが確かめる方法が無い。


『じゃあ、休みの日はウサギを叩きに来ようかなー。 それで、このウサギはどうしたら良いの?』


『持ち帰って捌けば良いと思うよ』


『・・・出来る訳ないでしょ』


 俺の収納魔法に保管しておいて、後日ピリヨとリィズの料理の教材として使って貰おう。


『明日から仕事なので遅刻しないように! 仕事の内容は小学生でも出来るような事だから大丈夫だとは思うけど』


『あ~。1つだけ、どうしてもお願いしたい事が有るんだけど……聞いてくれる?』


 内容によるだろ! 俺にだって出来る事と出来ない事があるぞ。むしろ出来ない事の方が多いと思う!

 良い男を紹介しろと言われても絶対に無理だ。

 もっと金が欲しいって事なら、、、検討しよう。


『日本で女の子用のアレを買って来て!』


『・・・えっ!? アレって、、、もしかして』


『大丈夫。ドラッグストアに行って父子家庭で娘の為に~とか言ったら店員が色々教えてくれるから!本当はピルの方が良いんだけど、男性には売ってくれないと思いうから仕方ないよねぇ』


 それのどこが大丈夫なんだ?

 異世界に来て最難関のミッションじゃないのか?

 俺の中の大事な何かが失われるような気がする・・・



 俺、もう、日本に行きたくない・・・





 第一章 完


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