第3話 変化

 あれから毎日のように私たちはゲームに没頭し、気が付けば瑠香と出会った日から2週間ほどが経過していた。

 

 カーレース以外のゲームにも色々触れた。

 

 街を開拓するゲームにかなりハマったようで、私が学校に行っている間にもプレイし続けていたらしい。そのせいでプレイ時間がえげつないことになっていた。

 

 街も、学校から帰って来るたびに大きく発展を遂げていて、見ているだけでも十分面白い。

 これ作ったんだーと詳しく解説してくれる瑠香の嬉しそうな顔を見ていると、なんだかこちらまで楽しくなってきた。

 

 夜もベッドで目を瞑りながら話していた。どれだけ会話を続けても話したいことは尽きず、寝るタイミングを失うことが頻繁にあり、翌日の授業はうとうとした。

 

 最初の頃は妙な関係だった私たちだが、徐々に仲良くなり、いまでは親友のような間柄になっていた。


 ――――――――――

  

 ある休日の午後のことだった。

 

 ベッドで横になっていたところ、枕元に置いたスマホが通知音を鳴らした。

 

 身体を起こしてベッドに腰掛け画面を見る。新着メッセージが一件入っていた。指でタップして開く。

 

 『なんか最近冷たくない?』

 

 友人からの一言。たったそれだけなのだが、顔が見えない分、強めな口調で言っているような悪い想像をしてしまう。

 

 頭の中がその一文でいっぱいになり、冷や汗が生じる。

 

 確かに近頃は瑠香とばかり遊ぶことに夢中で、友人の誘いを断ることが多々あった。

 

 人間関係というものは難しい。何か問題を起こして輪の中からハブられれば、学校で普通に生活することが困難になる。


 ましてやイジメにでも発展すれば心身にまで大きく影響を及ぼし最悪不登校や転校といった親まで巻き込む大騒動へと変わる。

 

 私が暗い顔をしていたからか、瑠香は近付いて手元を見てくる。咄嗟にスマホを遠くへ離した。

 

「ごめん……私のせいだよね」

 

 しかし、スマホを離すのが遅かったようで、文面は見られていた。


 私は何と返せばいいかわからず、口ごもる。

 

 お互いだんまりとしてしまう。その沈黙を破ったのは瑠香だった。

 

「お姉ちゃんは優しいから、あたしの為に遊んでくれたんだよね。友達との時間を削ってさ」

 

 違う。私も瑠香と過ごす日々が楽しくなっていた。


 瑠香が遊ぼうと誘ってきたことは何度もあったが強制ではなかった。


 だから友人からこう言われたのは私の落ち度なのだ。


 私の勝手でこんな事態になっているわけで瑠香は悪くない。そう言いたいのにうまく言葉がまとまらず言葉にならなかった。

 

 瑠香はその後も続ける。

 

 「ホントはあたしここにいちゃいけないのに、楽しいからって今の生活にずっと甘えてた。ごめん、お姉ちゃん」

 

 甘えていたのは私だ。


 交友関係も大事なのにそれを疎かにした。そのツケが回ってきただけなのだ。

 

「あたしちゃんと成仏するよ。会えて嬉しかったし、楽しかった」

 

 出会った当初は成仏してほしかった。


 でも今は違う。


 毎日顔を合わせてゲームをして楽しい話で盛り上がって、消えてほしいなんて気持ちはどこかへ消え去っていた。


 だから止めようと声を発する。

 

「まっ……」

 

「じゃあね」

 

 私の言葉を上書きするように別れの言葉を残し、脇目も振らず早足で出ていく瑠香。


 幽霊なのでドアも開けずに去っていった。

 

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